連載コラム SCM最前線

第2回
SCM構築の必要性・目的を
明確にすることの重要性

消費財メーカーで実現! 「面積原価管理」で商品のSCM効率を見える化

SCM最前線でご紹介した新たなSCM評価指標「面積原価」の概要と消費財メーカーでの適用事例をご紹介。 ※本資料は日刊工業新聞社「工場管理(2016年7月号)」の記事です。

1. 今さらなぜ「SCM構築の必要性・目的を明確化することの重要性」を取り上げるのか?

本連載読者の皆様にとって「SCM構築の必要性・目的を明確化することの重要性」など当たり前で、なぜ今さら取り上げるのか?という疑問を抱かれるでしょう。入社したての新入社員じゃあるまいし、そんな事は教えてもらわなくても百年前から分かっているという声が聞こえてきそうです。
それにもかかわらず、今回敢えてこれを採り上げるのには大きな2つの理由があります。

理由1:日本の製造業におけるSCM効率は低く、日本こそSCM構築に全力を上げるべき

理由2:SCM構築が進まないのは「SCM構築の必要性と目的」が明確でないことが最大の原因

と考えるからなのです。

2. 日本の製造業におけるSCM効率は低く、日本こそSCM構築に全力を上げるべき

製造業のSCMに日々携わっておられる読者の皆様にとってやや意外に感じられるかも知れませんが、日本の製造業におけるSCM効率は欧米に比べ著しく劣っています。

下図は昨年内閣府で報告された各国製造業のROA、つまり総資本利益率の推移です。

各国における製造業のROA推移

ROA(総資産利益率) = 利益 / 総資産


ROAは最近多くの製造業の決算報告でも採用されている指標であり、企業活動における投入資産に対する利益の比率を表す指標で、企業のSCM効率を示していると考えることができます。


日本の製造業におけるSCMの低効率性は明らかでしょう。


製造業の空洞化が課題であるアメリカと比較しても、ROAが半分にも満たない状況が永年に渡って続いています。程度の差こそあれドイツにも劣っています。


また同様に、日本の製造業はまったく儲かっていません。

各国における製造業の売上高営業利益率推移

上図は各国の売上高利益率の推移で、同じく日本の製造業の低収益性も明らかでしょう。

製造業に携わられている読者には、ご自身の感覚とギャップを感じられるのではないでしょうか?なぜなら、品質の高さやトヨタ生産方式に代表される日本の優れた製造能力に対する印象と、ROA・営業利益率の低さが結びつかないからです。


製造業の活動の本質が投入した資源から得られる利益の再投入・循環であるとするならば、低いROAはグローバル競争において圧倒的に不利な立場に立たされることを意味します。


これは単に製造業だけの問題に止まらず、日本全体の大きな政策課題として永年認識されてきました。その原因については多くの議論がなされています。

  • 日本は世界でも類を見ない競争の激しい市場であること
  • 日本における資本コストが欧米に比べ低水準であること
  • 企業活動全般における高コスト構造、など


です。さらに、最近特に話題にあがっているのは、

  • 日本の製造業による積極的な研究開発投資が利益に繋がっていないこと


です。

下図は各国製造業の研究開発投資と営業利益率との関連を2000年台の推移として示したものです。

各国の売上高利益率・売上高研究開発率分布

アメリカ・ドイツとも売上高に占める研究開発費率を低下させているにもかかわらず、売上高営業利益率を2倍以上に伸ばしています。一方、日本は研究開発費率を増加させているにもかかわらず、営業利益率を低下させています。


このことが強い製品を生み出すマーケティング力・製品開発力、つまりECM(Engineering Chain Management)の強化が叫ばれている背景です。

製造業の期間業務プロセス

ECMは製品のバリューを設計するプロセスです。


一方、SCMは設計された強い製品のバリューを利益として実際に刈り取るプロセスです。


いくら素晴らしい斬新な製品を生み出しても、SCMでそれを効果的に刈り取ることができなければ、底の抜けたザルと同じく本来獲得できる利益を垂れ流すことになります。


斬新な新製品を市場に投入し続けることは至難の業です。一躍脚光を浴びた新製品でも、それが市場に飽きられ業績が低迷し、市場からの退出を余儀なくされる例は数えきれません。常に斬新な製品を世に送り出し続ける事を前提とする経営は、危うい経営と言わざるを得ません。そこそこのバリューを持った製品であれば、しぶとく利益を確保する、そのような強靱なSCMこそが企業の安定的成長のインフラであるといっても過言ではありません。


世界に類を見ない厳しい日本という市場で生き抜いている、そのため営業利益率が低い、資産効率が悪いと泣き言を言ってみても仕方ないでしょう。何としても儲かる企業の体質、つまりSCMを作り上げるしかないのです。


以上が「日本こそSCMの構築に全力を上げるべき」と考える理由です。

3. SCM構築が進まない最大の理由:「SCM構築の必要性と目的」が曖昧

SCMを確立することは、サプライチェーン全体に渡る意思決定とオペレーション・プロセスの再構築を意味します。当然、その実現には膨大なヒト・モノ・カネと時間および全社員の永続的なエネルギーが必要です。そのためには、企業内部の強い動機付けが必須です。


その動機の源泉となるのが、「SCM構築の目的」と背景にある「SCM構築の必要性」です。


つまり、「SCM構築の必要性と目的」が曖昧なことは、SCM構築のエネルギーを大幅に削ぐことになります。


これを明確にすることができない限り、あなたはトップにSCM構築の必要性を説明することすらできず、その取り組みを開始するはできないでしょう。


ところで、筆者はなぜ「SCM構築の必要性と目的が明確になっていない」と考えるのでしょうか?
それは、以下の2つの理由からです。


理由1:SCMの目的が不明確なプロジェクトの散見


理由2:本質的な意味において「SCMの目的」とは何か?が曖昧


以下、それぞれ解説していきます。

4. SCMの目的が不明確な多くのプロジェクト

「SCM構築の必要性と目的が明確になっていない」と考える最初の理由は、目的が曖昧な多くのプロジェクトを筆者自身が現実に見てきたからです。

もちろん、すべてのSCMプロジェクトの統計を取ったわけではないので、データの裏付けが有る訳ではありませんが、筆者の見たSCM構築のプロジェクトでは、その目的が不明確なものが大多数でした。

それでは、どのような基準を満たせば、「SCMプロジェクトの目的」が明確であると言えるのでしょうか?


筆者は以下の3つの基準を満たすことだと考えています。


●SCM構築の必要性の明確化
  解決すべき経営レベルでのSCMの課題が明確、つまり構築の背景が明確であること

●SCMの課題のどの部分をプロジェクト目的とするかの明確なスコープの設定
  優先順位の高いSCMの課題に狙いを絞ったSCMの目的設定が行われていること

●数値目標の明確化
  プロジェクト実行の結果得られる効果が具体的なKPI項目とその数値目標が明確化されていること

上記は何もSCMプロジェクトでなくとも、一般のプロジェクトでも当たり前のことです。
特にこれを強調するのは、SCMプロジェクトではその取り組みの影響が全社に及び、また経営のあり方そのものにも影響を及ぼすため、その目的の明確化と全社的合意形成のハードルが高いためです。
また、現実にはかなりのSCMプロジェクトが「情報システムの老朽化更新」を契機に始まることが、目的を明確にできない大きな理由の一つでもあります。結局SCM改革を推進する人たちが、あるべきSCMのイメージを描ききれないことが、SCMプロジェクトの必要性と目的を明確にできない大きな理由です。


これを打ち破るには、自社のSCMのあるべき姿を明確にイメージできる社内リーダーの存在とそのリーダーシップが極めて重要です。


この役割は、社外の人間には肩代わりする事ができません。
その意味でも本連載では、少しでも社内リーダーのお役に立てる情報をご提供することを目的としています。

5. そもそも本質的な意味において「SCMの目的」とは何か?

さて、第3章でSCMプロジェクトの目的を明確化できない2番目の理由は、

本質的な意味において「SCMの目的」とは何か?が曖昧


であることを上げました。
これは少し分かりづらいと思いますので解説したいと思います。


そもそも、SCMとは何でしょうか?
Webで調べてみるといくつかの定義を見つけることができます。それらは、だいたい以下のように集約する事ができます。

現状におけるSCMの一般的定義

顧客満足の向上、在庫削減、リードタイム短縮、キャッシュフロー増大などの目標を同時に実現するため、企業内・企業間を含めた調達・生産・物流・販売など、サプライチェーン全体の最適化を図る経営手法

確かにその通りなのですが、茫漠としており、これらの定義からはどのようなSCMを目指すべきなのか、具体的な判断基準とするには不十分であると言わざるを得ません。

また、Web上に明確な「SCMの目的」に直接言及したものは見つける事ができませんでした。

このことが、一般の製造業において、そもそもSCMの目的・目標の定義を困難にしている根本的理由なのです。本連載の最終回で、本質的な意味におけるSCMの目的と評価指標についての提案を行いたいと考えています。

6. まとめ

今回は、「SCM構築の必要性・目的を明確にすることの重要性」を取り上げました。
それは、まず

■日本は欧米に比べてSCM全体の効率が劣っており、特にSCMに取り組む必要性が強い


ということを、まず本連載の読者の皆様にお伝えしたかったためです。
さらに、


■SCMの必要性と目的を明確にすることがSCMを進める上で最も重要だが、現実にはできていない


したがって、今後の連載では、

  • SCMの目的・目標設定を容易にするため、あるべきSCMの姿:業界最先端のSCMを明らかにする
  • 一般論として、そもそもSCMの目的が明確でないので、その本来の目的と評価指標を提案する


ことを今後の掲載テーマとして盛り込んで行きたいと考えています。
さて、次回はいよいよ「目指すべきSCMの姿」、S&OPについて具体的にご説明したいと思います。


乞うご期待!

LIXIL様導入事例がこちらからダウンロードできます

資料では、お客様にインタビューした以下のような内容を掲載しています。

  • 統合生産システム構築の背景/目的
  • BOMソリューションとしてSPBOMを選んだ理由
  • SCMソリューションとしてKinaxis RapidResponseを選んだ理由
  • システム構築によって得られた効果
  • LIXIL様の今後の展望

RapidResponse

S&OP分野でのグローバルリーダーに位置づけられるクラウドサービス

需給の急激な変動に際して、異常を瞬時にアラートし、迅速な意思決定・対応を支援するSCM、S&OPソリューションです。

執筆者紹介

連載コラム SCM最前線

エクサがこれまでのお客様ご支援で培った実体験に基づくSCM改革の道のりと、道中に立ちはだかる数々の壁を乗り越える方法を、業務とITの両面からご紹介!!

関連コラム

関連ソリューション

関連事例

お問い合わせ

CONTACT

Webからのお問い合わせ
エクサの最新情報と
セミナー案内を
お届けします
ソリューション・サービスに関する
お電話でのお問い合わせ

平日9:00~17:00※弊社休業日を除く