紙ベースで行われている在庫管理業務の課題とリスク
皆さんの会社では、商品や資材など資材倉庫の物品をどのように管理されていますか。
効率化を目指しながらも、いまだに紙伝票やExcel*1での入力・管理など、手作業も多く残っているのではないでしょうか。製造業のお客様が「現場DX」を推進していくためには、資材倉庫における在庫管理業務のシステム化も重要なテーマです。 今回は倉庫の在庫管理のスマート化についてお話しします。
紙伝票による入庫や払い出し、Excelによる数量の管理、さらにExcelシートを印刷した紙伝票に在庫量を記載する棚卸し作業。これらの作業には大きく次のような課題があります。
- 煩雑な手間がかかる
- ケアレスミスの発生
- タイムラグ
RFIDが在庫管理業務にもたらすメリット
在庫管理業務のシステム化は、物品を扱う企業に共通する課題です。これまで製造業をはじめとする多くの企業ではバーコードを活用することで、手作業による入力ミスを削減し、作業スピードを向上させてきました。しかし、バーコードを読み取るには対象物にリーダーを近づける必要があり、バーコードが見える状態にするための作業が必要でした。複数の資材がダンボールなどに収められている場合は、開梱して取り出す手間も発生していました。
そこでバーコードに代わって注目されているのがRFID(Radio Frequency Identification)です。簡単に言えば、電波を用いてICタグ(RFIDタグ)のデータを非接触で読み書きする仕組みです。バーコード読み取りとは違って複数のタグを一気にスキャンでき、電波が届く範囲内にあれば遠くの対象物に貼付されたRFIDタグも読み取れます。さらにRFIDタグは、バーコードと比べて圧倒的に多くの情報を記憶できるとともに、それらの情報を後から書き換えられることも大きなメリットです。対象物の型番やサイズ、重量といった基本情報のほか、在庫管理の状況を随時更新または追記しながら一元管理できるのです。
また管理対象も物品保全担当者だけに限りません。RFIDタグを貼付した名札を常に身に付けることで、その人物が工場内のどこにいて、設備保全のどのプロセスで、どんな作業にあたっているのかという情報まで紐づけて管理している例もあります。
RFIDはその構造上、バーコードと比べてコストが高いことがこれまで導入のネックとなっていましたが、近年は低価格化が急速に進んできました。バーコードとの価格差が縮まったことで、RFID導入の敷居が下がり、魅力的な選択肢の一つになりつつあります。
システム導入に際して4つの“ありたい姿”を描いた
ここでは、RFIDに注目したあるお客様(D社様)の事例をご紹介します。
D社様では、紙伝票を基に手作業で入力されたExcelで在庫量を管理していたため、入出庫業務には多大な工数が必要でした。特に業務が集中する定期修理時期には、転記ミスや紙伝票紛失なども発生。また、入庫時に物品が「分納」される場合などは発注オーダーごとの正確な数量把握が困難になることもありました。
さらに、倉庫担当者と保全担当者との情報伝達が手書きのメモに頼っていたため、入庫されたことがタイムリーに伝わらず再度発注し、使用予定のない在庫が蓄積されるなど、資産管理面での課題もありました。
こうした課題に対し、D社様ではRFID技術を活用したDXを検討、在庫・倉庫管理システムのスマート化 に着手しました。RFIDを取り入れて従来の紙ベースの在庫管理業務をデジタル化し、人手による作業工数を削減するとともに、ケアレスミスの予防やタイムラグの少ない正確な資産管理につなげようという取り組みです。
このプロジェクトにシステム構築パートナーとして参加したエクサは、まずD社様とともに現状の問題点を抽出しました。
D社様の資材倉庫で扱う品目は、常時在庫が発生する「常備品」と一時的に預かる「臨時調達品」とに大別され、それぞれ業務プロセスも異なります。双方の現状を調査・分析した上で、課題領域を4つに整理し、在庫管理業務の“ありたい姿”を策定しました。こうした作業を経ることで、実施手段を含めた解決策のアイデアを整理し、取り組むべき目標を明確にすることができます。
<ありたい姿>
1. 在庫量の見える化「入出庫がシステムで管理され、在庫状況を関係者がいつでも参照できる」こと。
2. デジタル化による業務効率化
従来の紙伝票から脱却し、「取引先、専門グループ、工事会社、資材担当者、資材倉庫のオペレーターが全員で情報を共有し、紙を受け渡すことなく業務を実施できる」こと。
3. 正確な在庫管理
臨時調達品については、「倉庫担当者以外、工事会社の人や保全担当者の誰がやっても入出庫の数や物を間違えない」こと。分納の対応(数回に分かれて入荷する場合の対応)を正確に行い、入出庫の数量や対象物の取り違えがないよう支援します。
常備品については、「正確な在庫管理により、情物一体化を実現する」こと。ピッキングにおける人の作業に起因するミスをなくし、帳簿数(金額)と在庫数(金額)が常に一致した状態を目指します。
4. 棚卸業務量の縮小化
「棚卸差異の縮小化と棚卸の効率化により業務量が最小化されている」こと。
クラウド型在庫・倉庫管理システムの実装ステップ
上記4つの“ありたい姿”を実現するための基盤として、エクサでは柔軟性の高いクラウド型の在庫・倉庫管理システム(Warehouse Management System: WMS)とRFIDの組み合わせを提案しました。RFIDの導入だけでは、在庫量の見える化を含め、上述の“ありたい姿”の実現はできません。入出庫の紙伝票の削減、臨時調達品の保管場所など、Excelで対応するには困難な部分をWMSで対応することにしました。導入したWMSは、物流の単位ごとに商品と場所の情報を定義して共通利用したり、個別に保持したりできます。
WMSは物流施設の可視化にも役立ちます。WMS上で作業実績、入出荷実績、在庫情報からデータを収集・分析し、その結果を各種グラフ形式で出力するサービスにより、現在の作業進捗に加えて過去データも用いて未来の入出荷の作業量や在庫の状況を予測することができます。
具体的なシステム実装に際しては、まずRFIDによる識別管理の機能とその運用方法の実現性を検証し、モノの識別・デジタル化の目途をつけました。その上で「臨時調達品、常備品の入出庫および処理の新規プロセスの詳細化」から「データ洗い出し、データ項目抽出」、「データ連携の要件定義」、「倉庫業務全体を支えるシステム構想および開発タスクの抽出」といったステップを経て、To-Beプロセス(“ありたい姿”)を実現するシステムと周辺システムとの連携要件を明確化しました。
まだ完全な目標達成には至っていませんが、4つの“ありたい姿”を着実にシステムに体現していきます。さらにこのシステムの実現により在庫も最適化され、会計面での貢献も期待されます。お客様の業務のスマート化を推進し、ひいては「現場DX」に貢献できると確信しています。
株式会社エクサ
エンタープライズ開発本部
先進アプリケーション開発室
第2開発室
プロジェクトプロフェッショナル
松尾 智之
連載コラム:技術視点で考える製造業「現場DX」実現のアプローチ
このコラムでは、近年進化してきた先進技術を製造業の現場業務に適用した「現場DX」の事例やユースケースを、リレー形式でご紹介していきます。
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