連載コラム:SCMの羅針盤 〜経営を強くする、現場を変える、未来を創る〜

連載コラム:SCMの羅針盤 〜経営を強くする、現場を変える、未来を創る〜

第2回:「そのAIは、道なきジャングルを走れるか?」
〜「AIコンサル」の落とし穴と、SCPプラットフォームで鍛える「AI同僚」の真実

前回のコラムでは、長年日本企業のサプライチェーン管理を支えてきた「勘と経験」による個別最適の運用から脱却し、真の「レジリエンス(適応力・回復力)」を獲得するためのアプローチをお伝えしました。世界標準の知見(APICS等)に基づいた4つの核心スキル(需要・供給・在庫・リスク管理)を整備し、組織全体で「共通言語」を持つこと。そして何より、どれほど高度なITシステムやプロセスを導入したとしても、それを最終的に運用し、決断を下すのは「人」であるという点に締めくくりました。


しかし昨今、「生成AIの急速な進化により、従来のサプライチェーン計画(SCP)ソフトウェアは不要になるのではないか」という議論を耳にすることがあります。果たして本当にそうでしょうか? もしナビゲーションや道路標識が一切存在しない「見渡す限りの砂漠」で、生成AIに「右へ進め」とアドバイスされたら、あなたは安心してアクセルを踏み込めるでしょうか?


第2回となる本コラムでは、最新のテクノロジー・トレンドを紐解きながら、「AI単体」と「それを支えるプラットフォーム」の決定的な関係性について考察します。AIは現場と経営の意思決定をいかに進化させ、仕組みを動かす「人」の役割をどう変えていくのか。その本質に迫ります。

1.「テスラをジャングルに放り出しても進めない」──プラットフォームという「舗装道路」の不可欠性

サプライチェーン計画の現場では今も、「手作業でのデータ集計と部門間調整に追われ、突発的な変化(地政学リスクや調達遅延、関税引き上げ等)への対応が後手に回る」という意思決定の限界に直面しています。

手作業集計による判断遅延を示すイラスト

手作業集計による判断遅延

① 判断の遅れ(データ集計・影響分析の長期化)

関税率の変化や需要変動が発生した際、影響範囲を特定するために膨大なExcelを引き直し、影響額を算出するまでに数日を要してしまうケースです。変化のスピードに追いつかず、意思決定が後手に回ります。

部門ごとの部分最適とサイロ化を示すイラスト

部分最適と業務の属人化

② 部門ごとの部分最適(サイロ化)と属人化

全体の制約や可視性が不足しているため、営業は在庫を積み増し、工場は稼働率を優先するなど部分最適が横行。調整業務が特定のエキスパートの「勘と経験」に依存し、組織の疲弊を招いています。

こうした課題に対して「生成AIがあればSCPソフトは要らない」とする極端な意見もありますが、これはAIの特性を誤解しています。

カナダのキナクシス(Kinaxis)社CEOであるラザット・ガウラブ(Razat Gaurav)氏は、この本質を見事な比喩で表現しています。

「テスラの自動車を例に挙げよう。テスラの車が高度な自動運転機能を備えていても、ジャングルの中に放り出されたらどこへも進めない。舗装された道路、ガードレール、交通ルールがあって初めて優れた性能を発揮できる。」

(出典:日本経済新聞 2026年8月31日朝刊 インタビューより)

サプライチェーンにおける「道路やガードレール」とは、工場・倉庫・輸配送・調達先などの物理的制約や複雑な相互関係をデジタル上に正確にモデリングし、End-to-End(E2E)でコンカレント(同時並行)に即時再計算できるパフォーマンスを備えたプラットフォームそのものです。路面(データと基盤)がない砂漠でAIに指示を求めても、迷走するしかありません。強固なプラットフォームが存在して初めて、AIも人間も真価を発揮できるのです。

2.Gartnerが示す2026年のトレンド:基盤上で動くAIのテクノロジー構造

世界的調査機関であるGartner社が発表した「2026年のサプライチェーン・テクノロジー・トレンド(Top Supply Chain Technology Trends for 2026)」においても、AIテクノロジーは単体で存在するのではなく、明確な基盤構造とガバナンスの上に成り立つ「3つのテーマ(8つのトレンド)」として整理されています。

【Gartnerが示す2026年への主要トレンド:3テーマ・8項目(概要)】

■ テーマ1:Autonomy and Agency(自律性とエージェント機能)

  • Polyfunctional Robots(多機能ロボット):単一作業ではなく、搬送からピッキング・梱包までこなす次世代ロボティクス。
    ※【位置付け】庫内・現場の物理作業自動化領域のため、本稿の計画(SCP)論では概要参照とします。

  • Physical AI(フィジカルAI):センサーで空間を把握し現場機器を自律制御する技術。
    ※【位置付け】物理制御領域のため、ソフトウェア層の意思決定論では概要参照とします。

  • Agentic AI(エージェント型AI):自律的に状況を判断し、計画立案や例外処理を自ら提案・補助するAI。

  • Collaborative Multiagent Systems (MAS/協調型マルチエージェントシステム):計画・調達・製造等の専門AIが互いに協調・折衝し、全体を動的同期する技術。

■ テーマ2:Specialization and Intelligence(専門化とインテリジェンス)

  • Intelligent Simulation(インテリジェント・シミュレーション):リアルタイムデータに基づき将来のシナリオ(What-if)を高速計算する技術。

  • Domain-Specific Language Models(ドメイン特化型言語モデル):サプライチェーン固有の知識や企業ルールを学習させた特化型モデル。

■ テーマ3:Trust and Governance(信頼とガバナンス)

  • Product Provenance(製品由来追跡):原材料から流通・ESG指標までを追跡する仕組み。
    ※【位置付け】意思決定ガバナンスの裏付けデータ基盤として位置付けます。

  • Decision Governance(意思決定ガバナンス):AIが提示する判断根拠の透明性を担保し、人間が安心して決断するための枠組み。

※出典:Clover Infotech Blog / Gartner, Inc. "Gartner Identifies Top Supply Chain Technology Trends for 2026"

人×AIの協調とシミュレーションのイメージイラスト

プラットフォーム上の「人×AI」協調

ここで重要なのは、「Agentic AI」や「マルチエージェント(MAS)」は、高速なシミュレーション基盤(Intelligent Simulation)とSCM専門知識(ドメイン特化モデル)が組み合わさって初めて機能するということです。

基盤上でリアルタイムに制約条件を計算できる環境があってこそ、AIは信頼できる提案を行え、「人×AI」の強力な協調体制が誕生します。

3.「迎合するAIコンサル」から「信頼できるAI同僚」へ──意思決定の大きな変化

これまで人間は「システムを操作して答えを探す」作業に膨大な時間を費やしてきました。これが次世代の「プラットフォーム×AI」によって、「AIが自律的に裏で計算・調整し、根拠付きの解決策を提示する」時代へと進化します。

ここで一歩深めて考えるべきは、「世の中に迎合するAIコンサル」と「信頼できるAI同僚」の違いです。

ネット上の一般的な知識しか持たない汎用的な生成AI(AIコンサル)は、社内の制約やリアルタイムな在庫・能力の限界を知りません。そのため、一見もっともらしい言葉で回答しても、現場の現実から浮いた「ハルシネーション」や耳ざわりの良い答えを出しがちです。

一方、E2EコンカレントなSCPプラットフォーム上で自社の業務・制約・データを徹底的に読み込み、専門機能を使って鍛え上げられたAI(Agentic AI/MAS)は、言わば「頼れるAI同僚」です。現場の苦労やトレードオフを理解した上で、以下のような大きな変化をもたらします。

自律型AIが提案するイメージイラスト

自律提案を行う「AI同僚」

①「単なる指示待ちツール」から「鍛えられたAI同僚(Agentic AI)」へ

【従来のSCP/汎用AI】人間が手動で条件を入力して何時間もシミュレーションするか、現実の制約を知らない汎用AIに漠然とした相談をするしかありませんでした。
【AI同僚の適用】SCM専門機能を備えたプラットフォーム上で動くAgentic AIが、突発的な調達遅延や関税変更を自動検知。裏でインテリジェント・シミュレーションを回し、「納期優先案(輸送費+5%)」「コスト優先案(納期+2日)」など、実行可能な代替案を先回りして人間に提案します。


部門間AIの自動同期を示すイラスト

マルチエージェントによる事前同期

②「泥臭い部門間交渉」から「専門AI同士の事前同期(マルチエージェント)」へ

【従来のSCP / 汎用AI】「営業の納期」 vs 「工場の稼働率」の対立は、結局人間同士の不毛な感情論や長時間の会議で調整していました。
【AI同僚の適用】販売・製造・調達それぞれの領域を担当する専門AI(マルチエージェントシステム:MAS)が、プラットフォーム上でリアルタイムにお互いの制約をすり合わせ。全体最適となる着地点を事前調整して提示するため、組織の交渉コストが大幅に削減されます。


説明可能な意思決定ガバナンスを示すイラスト

根拠が透明な意思決定ガバナンス

③「ブラックボックスな判断」から「説明可能な根拠(意思決定ガバナンス)」へ

【従来のSCP/汎用AI】なぜその数字が出たのか過程が見えず、結局人間がExcelで再計算する不信感が生まれていました。
【AI同僚の適用】Decision Governance(意思決定ガバナンス)により、「なぜこのサプライヤー変更を推奨するのか」「どの制約条件とトレードオフにしたのか」が自然言語とデータで明確に開示されます。人間は確信を持って最終決断を下すことができます。

つまりAIは、人間の仕事を奪う脅威ではなく、面倒な集計や調整を引き受け、人を「真の意思決定者(戦略的アナリスト)」へと引き上げる頼れるパートナーなのです。

4.まとめ

砂漠の中で地図も持たずに進むことはできません。高度なAIテクノロジーも、E2Eで全社の需要・供給・制約をリアルタイムに繋ぐ「コンカレントなプラットフォーム」という舗装道路があって初めて、その価値を発揮します。

これからの時代に求められるのは、「生成AIか、SCPソフトか」という二者択一ではありません。堅牢なプラットフォームの上で「AI同僚」を鍛え上げ、提示された根拠をもとに人間が迅速で戦略的な判断を下す──この「プラットフォーム × 人 × AI」の三位一体こそが、激動のグローバル市場を生き抜く強靭なレジリエンス(適応力)を生み出します。

APICSなどのグローバル標準知見で「人」の知見を養い、最高峰のSCPプラットフォームで「AI」の能力を解放する。この両輪を回すことこそが、次世代のサプライチェーン経営を成功に導く確かな道筋となるでしょう。

私たち株式会社エクサは、グローバルにおいてSCP(サプライチェーン計画)領域のリーダーソリューションとして高く評価されている「Kinaxis Maestro(旧RapidResponse)」を活用し、多数の製造業・流通業の企業様においてサプライチェーン改革の構想策定からシステム構築、定着化までをご支援してまいりました。

「自社に最適なSCPプラットフォームとAIの活用方法を知りたい」「意思決定のスピードを上げたい」といった課題をお持ちでしたら、ぜひ株式会社エクサにご相談ください。お客様の現場と経営に寄り添い、変革をともに推進いたします。


【注記・出典】
日本経済新聞 2026年8月31日朝刊「激しさ増す貿易戦争、企業の供給網管理に重み キナクシスCEO」(ラザット・ガウラブ氏インタビュー記事参照)
URL: https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCB2430S0U6A820C2000000/

Clover Infotech Blog, "Gartner Identifies Top Supply Chain Technology Trends for 2026" (Gartner, Inc. Press Release 参照)
URL: https://www.cloverinfotech.com/blog/gartner-identifies-top-supply-chain-technology-trends-for-2026/

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