サービスデザインとは?わかりやすく意味や効果を解説
サービスデザインとは、製品などの「モノ」と、接点・体験などの「コト」を統合した「サービス」全体をデザインし、提供することで、顧客体験をより望ましいものにする営みです。まずはサービスデザインの意味や求められる背景、UXやCXとの違いなどについて解説します。
サービスデザインの意味
経済産業省が2020年に発表した資料では、サービスデザインを以下のように定義付けています。
「顧客体験のみならず、顧客体験を継続的に実現するための組織と仕組みをデザインすることで新たな価値を創出するための⽅法論である」
引用元:
経済産業省「我が国におけるサービスデザインの効果的な導⼊及び実践の在り⽅に関する調査研究報告書[詳細版]」(P.20)
サービスデザインにおける「サービス」は、従業員が顧客へ行う奉仕的な活動といった、直接的な接点のみを指しません。顧客がモノを認知し、利用を検討するところから、購入後のアフターサポート、廃棄、契約終了までを一貫した「サービス」として扱います。
このようにサービスデザインでは、顧客体験の全体をデザインの対象とします。デザインのプロセスでは、顧客体験を調査・分析し、サービスの検討とプロトタイプによる検証を繰り返し、最終的なサービスの実装を行います。
こうして理想的な顧客体験を提供して継続的な利用を促すことに加え、サービスの実現までに障壁となる企業運営・組織構造などを見直すことがサービスデザインの目的です。
サービスデザインの効果と求められる背景
現在、市場が成熟するにつれ、モノに対して更なる付加価値が求められるようになりました。経済や産業形態の変化に伴って機能、品質、価格などモノによる差別化は難しくなっているためです。
情勢の変化の例として、インターネットやSNS、口コミサイトなどにより情報を得やすくなったことが挙げられます。これを受け、クラウドファンディングなど消費者が参画意識を感じられるサービスや、顧客が安心を得られるようクリエイターや生産者がモノを創出する過程を発信するコンテンツが登場しています。このように、モノだけでなくプロセスに価値を求める考え方が注目を受ける状況にあります。
一方で、市場にモノがあふれる中でモノ単体の価値は低下しており、良い製品であることだけでなく、何らかの付加価値を与えられることが前提となっています。
そこで、サービスデザインを取り入れることによって、人間中心の視点を持って新たな価値を探索し、それを活かした顧客体験の向上で他社との差別化を図れます。新たな価値の創造は企業の市場競争力を高め、業績の向上にもつながります。
またサービスデザインのプロセスでは仮説の構築とプロトタイプによる検証を繰り返すことから、不明瞭な状況を明確にしていくアプローチとマインドが身につきます。複数の部署が連携を求められることでコミュニケーションを活性化し、新規事業の創出と既存事業の改善といった効果に期待できます。
サービスデザインは官民でデジタル化、DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進するために有効な方法論として注目されていることもあり、DXの実現やフィンテック導入などのプロジェクトを成功に導けると考えられています。
UXデザインとサービスデザインとの違い
サービスデザインとは顧客体験だけでなく、「組織と仕組みのデザイン」も施策に含まれることがあります。顧客体験の理想化を目指す中で、業務運用や組織体制、企業風土、ステークホルダーとの関わり方や、ビジネスデザインとしてどのように収益を生み出すかを検討することがサービスデザインにおける活動のひとつです。
一方、UX(ユーザーエクスペリエンス)とは、一般的にモノの利用を通じた顧客体験にフォーカスした部分を指します。UXデザインでは多くの場合、顧客のサービス利用前・利用中・利用後を段階に分け、それぞれの感情や体験などを対象として検討を行います。図からも分かるように、UXデザインはサービスデザインの一部として取り組まれます。
CXデザインとサービスデザインとの違い
CX(カスタマーエクスペリエンス)とは顧客が商品やサービスの全ての接点において得る体験のことです。CXデザインはこの接点を通じて優れた顧客体験を生み出し、顧客満足度の最大化を目指して取り組むプロセスであり、提供する全ての体験、全体のブランドイメージに関するデザインも含まれています。
サービスデザインとCXデザインは顧客に与える体験に注視する点は共通していますが、サービスデザインではサービスを提供する従業員や組織のデザインも含まれるため、CXデザインとは対象範囲が異なります。
サービスデザインの6原則
サービスデザインではCXデザインなどと同様に顧客の体験、接点を重視します。このため顧客の価値観を明らかにするためにデザイン思考や人間中心設計といった考え方の活用が重要です。
また顧客との接点が適切になるようにバックステージからサービスを提供する従業員やステークホルダー、それを取り巻く社会環境も包括的に考え、サービスを作り上げていく姿勢が求められます。
サービスデザインに求められる考え方について、経済産業省の資料では、書籍『THIS IS SERVICE DESIGN DOING』をもとに、以下の6つの原則を挙げています。
“
- 人間中心
サービスの影響を受けるすべての⼈のエクスペリエンスを考慮する。 - 共働的であること
サービスデザインのプロセスには多様な背景や役割を持つステークホルダーが積極的に関与しなければならない。 - 反復的であること
サービスデザインは、実装に向けた探索、改善、実験の反復的アプローチである。 - 連続的であること
サービスは相互に関連する⾏動の連続として可視化され、統合されなければならない。 - リアルであること
現実にあるニーズを調査し、現実に根差したアイディアのプロトタイプを作り、形のない価値は物理的またはデジタル的実体を持つものとしてその存在を明らかにする必要がある。 - ホリスティック(全体的)な視点
サービスはサービス全体、企業全体のすべてのステークホルダーのニーズに持続的に対応するものでなければならない。
”
引用元:
経済産業省「我が国におけるサービスデザインの効果的な導⼊及び実践の在り⽅に関する調査研究報告書[詳細版]」(P.22)
ここからは、それぞれの原則についてひとつずつ解説します。
1.人間中心
2.共働的であること
サービスデザインのプロセスには多様な役割を持つステークホルダーが関与しなければならないとされています。社会環境や遵守しなければならない法規など、様々な観点を踏まえ包括的に作り上げていくために、すべてのステークホルダーが積極的に関与しサービスを組み立てる必要があります。
3. 反復的であること
4. 連続的であること
5. リアルであること
6. ホリスティック(全体的)な視点
サービスデザインの方法と流れ
リサーチ
まずは特定の顧客の行動や価値観、ニーズを調査します。予備調査として業界動向や業界をリードしている組織、競合他社や類似商品など外部環境の調査も行います。
例としてATMサービスにおいては、近年キャッシュレス決済の普及に伴い現金の利用機会が減ったことでどのような影響が出ているのか、キャッシュレス決済の普及により顧客はATMサービスにどのようなコトを期待するのか、このような環境下で競合他社はどのように考えているのか、キャッシュレス決済業者は何を目指しているのかなどを、インサイトを導出するために調査します。
アイディエーション
リサーチにより得られた価値観、ニーズも踏まえサービスの改善や新たな価値を生み出すためのアイディアを出します。アイディエーションには「Crazy 8's」や「タイムマシン」といった様々な手法があります。
いずれもオープンマインドでどのように突出したアイディアが出てきても、また逆に当たり前のように思えるアイディアでも否定することなく、他者の意見を巻き込みながらアイディアを抽出していくのが原則です。抽出されたアイディアは後述のプロトタイピングやユーザーテストなどで検証を繰り返し、ブラッシュアップを重ねていきます。
プロトタイピング
顧客との接点になるプロダクトの検証を行うためにプロトタイピングを行います。共創ワークショップなどでは紙にプロダクトが実装された姿を描き、仮説を満たすプロダクトとなっているかフィードバックを得るペーパープロトタイプが用いられます。ペーパープロトタイプはプロダクトの想像を膨らませることができるように表示するデータや画面を大まかに描きます。デザイナーが細かいビジュアルデザインを作成する必要もなく、短時間で作成できるため、短期集中型のプロジェクトでも用いられます。
デジタルプロトタイプはプロトタイプ用のツールを用いて、よりプロダクト実装後の姿に近いプロトタイプを作成します。フォントの大きさや色合い、画面遷移なども実装後の形に近くなるため、より完成品に近い姿をもとにした具体的なフィードバックを期待できます。ただしデジタルプロトタイプの作成は時間を要することが多く、また表示するデータや画面を実装する技術がある前提で作成するため複雑なデジタルプロトタイプを作成すると実装が難しくなる場合があります。
実装
プロトタイプを用いたフィードバックなども踏まえプロダクトを実装します。アプリなどを例にすると、実装時にはプロトタイプに直接現れない内部処理や、顧客が利用すると想定しているスマートフォンやPCといったデバイスの種類、顧客の利用状況を測定するためのログ機能、情報セキュリティを保つための方式、運用フェーズを見越した実装方法など、様々な側面を考慮した設計作業が必要です。実体のある製品では、生産体制の整備などを行います。
また実装後でも、そこからまたリサーチを繰り返し、プロダクトを改善し続けます。
実装は複数の担当者が関わりひとつのプロダクトを作り上げていくため、サービスデザインで狙う顧客体験とその方法を誤りなく伝え、実装につなげていく必要があります。
サービスデザインで活用できる手法
KA法
KA法とは2006年に紀文食品のチーフマーケティングアドバイザーである浅田和実氏が開発、公開したものです。KA法は顧客が顧客自身も気づいていない、潜在的に持っているニーズを解釈、導出するのが特徴で、顧客の行動と価値観を整理するために第三者が検証しやすい分析方法とされています。
インタビューやアンケートにより顧客が経験した「出来事」ひとつひとつに対する「心の声」と「心の声に基づいた価値」を可視化していきます。出来事に対する心の声と価値を全て明確にした後に、価値ごとにグルーピング、構造化することで「価値マップ」が作成できます。価値マップは顧客が体験する価値を俯瞰して見ることができ、分析する担当者の主観が含まれにくく、新しいアイディアの発想に役立てることができます。
ペルソナ分析・カスタマージャーニーマップ
ペルソナとはマーケティングで「架空の顧客」を表す言葉として使われています。ペルソナは年齢や性別、職業、仕事内容、住居、年収、趣味、よく足を運ぶ場所、週末の時間の使い方などを細かく設定し、サービスを利用する顧客の一人を想定します。
ペルソナはカスタマージャーニーマップを作成する際にも重要となり、ペルソナがいつ、どのような状況で、どのようなデバイスを利用してサービスを利用するのかという状況を想像しやすくします。またペルソナは一人に限らず、複数設定することでサービスの方針を決めやすくなります。
カスタマージャーニーマップはまず、サービスの認知から利用終了までの時系列の行動を整理します。続いて整理された行動とペルソナをもとにして、顧客の思考、感情を想定して設定していきます。これによりペルソナの顧客体験が可視化して表されます。なお、ペルソナの感情はあくまで想定であるため、思い込みで記載されないように、複数名で議論をしながら様々な観点で設定する必要があります。
追記された感情からさらに感情曲線を記載するとペルソナの感情を把握しやすくなります。例えばサービスの比較を行う際に「困った」「難しい」といったネガティブな感情があれば感情曲線は下がり、アフターサービスを受ける際に「助かった」「嬉しい」といったポジティブな感情があれば感情曲線は上がります。感情曲線が下がっているポイントや、急に上下するポイントなどがあれば改善を行います。
サービスブループリント
サービスブループリントはサービスを顧客に提供するために必要となるプロセスを、サービス提供者側の視点で視覚化する方法です。カスタマージャーニーマップと似ていますが、カスタマージャーニーマップは顧客がサービスを利用する際の一連のプロセスを視覚化したものに対して、サービスブループリントはカスタマージャーニーマップから抽出された顧客との接点とサービス提供者の関わり方を視覚化し、サービスの提供プロセスを加えたものになります。
サービスブループリントを用いてプロセスを視覚化することで、提供者側のプロセスに問題がないかを確認しやすくなり、ステークホルダーとの関わり方や顧客体験の提供に必要な要素を確認できます。
ユーザーテスト・ユーザビリティテスト
ユーザーテストとユーザビリティテストは、どちらもユーザーに対象となるサービスを体験してもらった上でアンケートやインタビューを行い、サービスへのフィードバックを得ることを目的とします。
ユーザーテストではプロトタイプや実装されたプロダクトにユーザーが触れることで、サービスが受け入れられるかを確認します。コンセプトやペーパーモックアップなどをユーザーに提示してフィードバックを得る、またペルソナに近いインタビュイーに協力してもらいペルソナの設定と現実に乖離がないかなどをチェックすることが含まれます。
これに対してユーザビリティテストはデジタルモックアップなどのプロトタイプや実装されたプロダクトを用いてインタビュイーに操作してもらい、プロダクトが使いやすいかをチェックします。
いずれもユーザーからのフィードバックはコンセプトやペルソナ、モックアップに反映し、アップデートの参考にします。ユーザーのちょっとした反応も観察対象とすることから、テストの実施方法は直接対面で行うことが望ましいと言われています。また、ユーザーの素の反応を引き出すために、より本来の利用環境に近づけるべく、ステークホルダーが別室からインタビュイーの様子を観察できる環境の整備があると、更に良いと言われています。
サービスデザイン成功のポイント
6つの原則のひとつにあるように、サービスデザインは反復的であるべきとされています。変化の大きい昨今においてモノを作れば売れる、売ったら終わりというだけではなく、顧客に価値提供をしながら中長期的な関係を保っていく必要があります。そのためにも常にサービスを見直し実装を繰り返すことがポイントとなります。
そのため、サービスデザインを反復的に見直すために、積極的な検証を繰り返すことが欠かせません。サービスの運用や品質、バックステージを支えるスタッフの貢献度、そして収益の状況など様々な観点からの検証が必要です。
この他にもサービスデザインをより有益なものとするために、組織外のメンバーとの協力も不可欠になります。これも6つの原則で包括的であるべきとされていますが、組織外の必要なプレイヤー、ステークホルダーを巻き込んでプロジェクトを推進していく力が必要となります。
金融業界におけるサービスデザインの成功事例
株式会社ジャックス:新規サービスの業務要件を定義
株式会社ジャックス様(以下、ジャックス様)では、「強みを活かした国内事業の収益基盤拡充」へ向けて各種施策を展開しています。同社はその中で、ステークホルダー様の利便性向上ならびに業務効率化に向けたプラットフォーム構築を検討していました。
ステークホルダー様の要件スコープの決定や将来構想への課題に、エクサはテクノロジーとサービスデザインの観点から総合的な支援を行うサービス「FinTech つなぐラボ」を提案しました。その結果、デザイン思考による早期見える化を重視した推進案などを評価いただき、サービスの正式採用に至りました。
サービスの採用後、エクサはサービスデザインの方法論にもとづき、実際のシステム利用者からのニーズ抽出・整理を行う業務要件定義と、後工程でスピーディーにシステム開発が行えるインプットの作成支援を行いました。
サービスの調査、分析ではペルソナを設定したユーザーインタビューからAsIsユーザージャーニーマップの作成、競合分析を行いコンセプトデザインの作成、サービスブループリントを用いたサービス全体像の明確化、アイディエーションを用いたコンセプトデザインの作成といった取り組みを行っています。アイディエーションでは全員で納得感のある合意ができ、有意義な時間になったというお声もいただいています。
この事例について、詳しくはこちらをご覧ください。
株式会社ジャックス様【導入事例】
大規模なステークホルダー様向けプラットフォーム構想をデザイン思考でのアプローチにより業務要件を集約
株式会社東武カードビジネス:クレジットカードの入会申し込み率向上
株式会社東武カードビジネス様では、新型コロナウイルスの影響による店頭での紙を使ったクレジットカード申込も敬遠される傾向があることに課題感を持たれていました。
このためエクサはグループ商業施設来店者に安全で便利なクレジットカード申込を提供すべく、非対面のWebでも迷わず手続完了に導くWeb入会申込フォームの改善をご提案しました。クレジットカードの商品や法律上の制約を考慮した最適なデザイン制作の可能なデザイナー・技術者を有する点を評価いただいたことから、「FinTech つなぐラボ」の採用につながりました。
その後、サービスデザインの考え方に基づき、調査・分析としてペルソナの設定とAsIsユーザージャーニーマップの作成、そしてペルソナの行動、思考、感情から分析した離脱ポイントをもとに手元で実際に動かして使えるプロトタイプを提示しました。ご担当者様は、ユーザーによって使いやすいフォームが完成したという手ごたえを感じられています。
この事例について、詳しくはこちらをご覧ください。
株式会社東武カードビジネス様【導入事例】
クレジットカードWeb入会申込フォームのUI改善により、コンバージョン率向上に向けたご支援を実施
まとめ
サービスデザインのより良いサービスを提供する視点、プロセスは様々なサービスに適用できます。エクサの金融業界企業・団体向け支援サービス「FinTech つなぐラボ」では多彩なスキルを持ったメンバーが共創ワークショップでの新しい価値の創出や、UXデザインからシステム構築・運用までワンストップのサポートを提供しています。ぜひご検討下さい。
デザイン思考で新規ビジネス価値創出をサポートする
FinTech つなぐラボ
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