創造力発揮のカギを握る「できた感」
昨今、ボトムアップでもビジネスアイデアを求められることが多くなってきましたが、急にアイデアを出せと言われても、戸惑ってしまう場合が多いのではないでしょうか。
一方、多くの有名企業の新規事業創出を支援するデザインコンサルティング会社IDEOは「クリエイティブ・コンフィデンス(自分の創造力に対する自信)を育むことで、誰でも創造力を発揮できるようになる」ことを教えてくれています。しかし、その自信をつけるための行動を起こすこと自体が、なかなか難しいものです。
金融領域のDXを専門とし、ビジネスアイデア発想力を伸ばす必要がある私たちの組織では、自信に繋げる最初の行動を起こす場として、定期的にアイデアソン(新しいアイデアを生み出すためのイベント)を開催しています。
これには、「自分でもアイデア出しができた!」という自信(私たちの中では「できた感」と呼んでいます)がつけられるようにメンバーを小さな成功体験へと導く仕組みが詰まっています。
今回は、アイデア作りの現場でよく起こる3つの問題を例に挙げ、私たちの実施するアイデアソンがそれらをどんな工夫で乗り越えているかをご紹介します。
(ご参考)私たちが実施する部内アイデアソン概要
私たちの組織内で実施するアイデアソンの概要をご紹介します。
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運営者:部長、室長
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参加者:部配下メンバー全員(25名程度)
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体制、役割分担:4~5名のチーム分けとリーダー選出を運営が実施し、細かな役割分担はチームで決定
※忙しさや年次を加味した上で、できるだけそれまでコミュニケーションの機会がなかったメンバー同士がチームになるよう調整
※その時々に強化したいスキルがあれば、専用ポジションを設ける場合もあり -
期間:3~4週間(テーマ公示からアイデア発表会まで)
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スケジュール:下図参照
業務の傍らでも楽しみながら取り組める!殻を破れるアイデアソン開催のための6つの工夫点
■ よく起こる問題1:アイデアを出したくても思いつかない
工夫点①:程よい制約を設けたテーマ設定で、ついアイデアを出してみたくなる気持ちを掻き立てよう
「現在の業務の改善案」や「新規ビジネス案」といった大きなテーマで、いきなりアイデアを出そうとしていませんか?
どんな状態になったら嬉しいかをつい想像してしまうようなターゲットの設定やキーワードを追加することによって、発想を促すことができます。まずは、自分自身や身近な人が当事者となるターゲット設定や、ちょうどよい「狭さ」となる制約のつくキーワードがおすすめです。
例えばテーマに「ボーナスの使い道」や「夏休み」と入れてみることで、自分の体験として楽しんで想像してみやすくなります。内容的にも個人のエピソードから話し始められることによって、「その人がいいなと思うこと」が判断基準となるため、発言に慎重になる空気も緩和されます。
将来的には、自社のターゲットユーザーにとって嬉しい仕組みが作れるようになる必要はありますが、ここで優先すべきは「できた感」です。まずは、身近で大きすぎないテーマで始め、ハードルを下げることによって、小さな成功体験ができるよう工夫しましょう。
取り組み事例:私たちの組織がこれまでに取り組んだアイデアソンのテーマをご紹介します。
工夫点②:情報収集プロセスを挟んでみよう
昨今のビジネスアイデアのほとんどは、既存ビジネスのスキームやテクノロジー同士の組み合わせでできていると言われています。そのため、様々な情報を知ることで、トレンドを把握できるだけでなく、見えてくるユースケースがあります。アイデア発想の前に、検討対象領域に関するサービスや技術に関する情報収集インプットのプロセスを設けましょう。
取り組み事例:こういった情報の引き出しは、日ごろの積み重ねによって増やしておくことで、更にアイデアを出しやすくなります。
私たちの組織では、各自の専門性探求の中で収集した情報を持ち回りで共有するLT(短い時間での情報共有)や、Slackに情報共有用のチャンネルを作成し、多様な分野の最新情報をキャッチアップできるようにしています。
■ よく起こる問題2:アイデアは出せたものの、ありきたりなものばかりになってしまう
次に起きてしまいがちなのが、アイデアは出せたものの、似たり寄ったりなものになってしまったり、ついどこかで見かけたものの模倣になってしまうといったような、ありきたりなアイデアばかりになってしまうという点です。
私たちの組織では以前、Chat Botが流行り始めた時期に、考えるすべてのアイデアがChat Botになってしまい、抜け出せなくなるという状態に陥ったことがありました。身の回りから発想するのもよいことですが、あまりにもアイデア発想が惰性化してしまった結果と言えます。
工夫点③:アイデア発表会をイベント化して、アイデアを磨き上げる動機づけをしよう
ありきたりなアイデアが悪いわけではありません。そのアイデアで解決したいことがきちんと達成できていれば問題ありませんが、そもそも皆で似たようなアイデアしか出せなくなってしまって、アイデア発想の活動自体が停滞してしまうことはありませんか?
そんな場合にこそ、アイデアソンは有効です。最後に行うアイデア発表会によって、アイデアづくりが、とっておきのアイデアを形にして伝える体験に変わります。この少しのスコープの変更が、こだわって作ってみようとするやる気を喚起します。
また、アイデアソンの最後に審査員役がアイデアの優劣を評価する仕組みを設ければ、「審査員役はどのような点を重視するのか?」という意思決定者を意識する視点や、アイデア概要を説明するために、「ユーザーにどのような価値を届けるアイデアなのか?」といった、提供価値を考えるきっかけも自ずと生まれ、ビジネスに必要な着眼点も育まれてゆきます。
取り組み事例:私たち組織では、考えたビジネスアイデアの概要をプレゼン資料にまとめ、アイデア発表会で披露しています。
工夫点④:[更に出来たら]より確実に「できた感」を感じられるよう、慣れたメンバーが進行や手法活用をリードしよう
最初は自分が取り組むだけで精いっぱいですが、慣れてくると、過去に試してみたアイデア発想手法の活用や、事前に認識合わせしておいたほうがよいことなどの、ノウハウが貯まってきます。
そのようにして、アイデアソンに慣れたメンバーが増えてきたら、慣れたメンバーが状況に応じた進行やアイデア発想手法を活用しながらリードし、より成功体験獲得の確度を上げましょう。ただ、慣れるまでは試行錯誤が続くため、プロのファシリテーターに依頼するのも良いでしょう。
■ よく起こる問題3:取り組む暇がない、やる気が続かない
専任で新規事業案創を行う組織もありますが、多くは現業と兼務の中で新たなアイデアを検討する必要がある状況なのではないでしょうか。ただでさえ多忙な中で、アイデアも追加で実施と言われても、後回しになってしまい、なかなか実践が進まないという話は、私たちもよく耳にするお悩みです。
本当は専用の時間を用意できればベストですが、それが叶わない場合に、業務の傍らで行うアイデアソンが、メリハリのあるアイデア発想を助けてくれます。工夫点⑤:あえて短期間で取り組む期間を設け、緊張感をキープしよう
「この期間のどこかで新規ビジネス案を検討」という長期目標を置くだけでは、なかなかその計画は進まないものです。アイデアソンのような、最後にアイデア発表があり、他の参加者も居るイベントにすることで、その期間でやりきるという強制力が生まれます。
体験してみるとわかるのですが、アイデア発想や、そのための情報収集は、移動中や本業の息抜き時間に行うこともできる作業が多く含まれます。そのため、期限を設けてそのことを頭の片隅に置いておくようにすることで、自ずと隙間を縫った行動が促されるようになります。
また、個人の自由な時間で行える内容を宿題とし、チームで話し合いながら実施しなければ進まないことを明確に分けて実施するような工夫も組み合わせれば、打合せで拘束される時間を最小限にすることができ、その分参加メンバーの負担も軽減できます。(具体例は、「(ご参考)私たちが実施する部内アイデアソン概要」のスケジュール参照)
工夫点⑥:[更に出来たら]個人ワーク結果をリアルタイムでシェアして、お互いの発想に刺激を受けながらアイデア発想しよう
昨今のテレワーク環境整備により、チャット等の気軽にメッセージをやりとりできるツールが導入された企業も多いのではないでしょうか。アイデア発想には、そのようなリアルタイムなコミュニケーションの取れるツールを活用することで、お互いのアイデアに着想を得ながら、アイデア同士の掛け算をすることができ、より効果的です。
また、会話の場としてのチャットツールに加え、オンラインホワイトボードmiroやカンバン方式タスク管理ツールTrelloといった、話題を書き留めておくようなオンラインツールも合わせて活用することで、より快適な遠隔アイデア発想を行うことができます。
さいごに
初回の開催には不安要素も多いですが、まずはやってみることが状況改善の第一歩になります。開催中は案外、忙しさを忘れて楽しめる瞬間もあり、新たな自分の一面に気づくメンバーも多いはずです。
是非皆さんもアイデアソンの実践で、「できた感」を育んでみてくださいね。
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