業務の「属人化」にはさまざまなリスクが潜んでおり、その解消は、多くの企業にとって重要な課題です。
今回は、製造業において属人化の傾向が顕著な見積業務に着目し、属人化の3つのリスクと、属人化からの脱却のヒントについて考えていきます。
見積プロセスの属人化によるリスク
多様化したニーズに応えるため、昨今製造業では少量多品種生産、グローバル対応が必須です。それに伴い受注生産型製造業の見積プロセスが複雑になっているだけでなく、回答スピードの加速化に応じるため、迅速な見積作成が求められようになっています。
しかし、多くの日本企業において、見積プロセスの多くが属人化しており、見積スピードとその精度が個人のスキル・ノウハウに依存しているケースが少なくありません。
まずは、見積プロセスの属人化を放置するとどのようなリスクがあるのか、3つの視点で整理します。
属人化がもたらすリスク① 機会損失
多様化した市場のニーズに迅速に対応するため、顧客企業ではメーカーに対してスピーディーな見積回答を求めます。その際複数仕様を検討するために、複数の見積を同時に依頼するケースも少なくありません。
一方、受注生産型製造業では、複数の部門を横断して見積を作成するため、多くのコミュニケーションを必要とします。業務プロセスが属人化しており、かつ、複雑で長いプロセスとなっているため、見積回答までに時間がかかる場合が少なくありません。
見積回答が遅いことで、失注したり、顧客企業の検討のテーブルにも乗れなかったりといった事態が発生する恐れがあります。
属人化がもたらすリスク② 価格競争力低下
ノウハウを持つ人が不在の場合や、退職した場合、その人のノウハウのみで成り立っている精度の高い見積回答を行うことができなくなります。原価の積み上げや採算ラインの把握などを正確に確認できないまま見積を作成することになり、損益分岐点が不明確なまま価格提示を行う事態にもなりかせません。そうすると、適切な値引き判断ができず、価格交渉で競合他社に後れを取るリスクが高まるでしょう。
また失注した場合、発生した見積コストは受注案件の利益で補うことになります。それが重なると受注案件の間接経費の負担が増加し、事業全体の原価を上昇させる結果につながります。その結果、同業他社との価格競争力を低下させることになります。
属人化がもたらすリスク③ ノウハウ消失
見積業務は、複雑な条件を踏まえて積み上げていくものであり、高い知識と経験が求められます。本来は、ベテランから若手へと段階的にノウハウを継承していくことが望ましいものの、働き手不足により見積部門に十分な人材が配置されず、ノウハウを継承しにくい体制になっている企業も少なくありません。
このような状況で業務の属人化が解消されなければ、ノウハウを持つベテラン担当者が転職したり退職したりした場合、そのノウハウは組織内に残らず、永久に失われることになってしまいます。
なぜ、見積プロセスを「標準化」できないのか?
これまで紹介してきたような、属人化によるリスクは以前より認知されており、対策を検討する企業も少なくありません。しかし、なかなか属人化の解消につながらないのはなぜなのでしょうか。
多くの企業で見積プロセスが標準化されてないというのが一番大きな原因だと考えられます。ここでは、受注生産型製造業で見積プロセスの標準化が難しい要因を探ります。
標準化できない理由① 「標準積算表」がないケースが多い
見積を作成する際には「積算」が行われます。これは見積もる案件に関係する材料費、労務費、直接経費などを合計して「原価」を算出することです。原価に利益と間接経費を加えた金額が見積額になります。たとえば土木や建築分野では標準積算表と呼ばれる国土交通省が定めた「公共建築工事標準単価積算基準」や「公共建築工事見積標準書式」があり、業界全体で材料費・労務費・機械経費などの算定方法・基準が統一されています。
これに対して製造業では、自社内ですら算定方法・基準が統一されていない場合が少なくありません。
業界、あるいは自社で統一された「標準概算表」が十分に整っていないケースが多いことが、標準化が難しい要因の一つと考えられます。
標準化できない理由② 製品ごとの仕様が異なる
受注生産型製造業の場合、「標準品」が存在していても、実際に受注する際は、「準標準品」に対するカスタマイズが必要になるケースが多数あります。そういったケースでは、
部品の組み合わせの可否や追加・変更、変更となる工程、それに伴う経費・労務費を調査するなどのプロセスが発生します。
また、準標準品のカスタマイズでは対応が難しい場合には、「特注品」になり、製造可否や安全性などを評価するための、技術検討が必要になります。
以上のように製品ごとの仕様が異なるケースが多いことも、見積プロセスの標準化が難しい要因の一つです。
標準化できない理由③ 見積プロセスが複雑化している
多様化するニーズに対応するため、受注生産型製造業でも多品種少量生産の製品が増加しています。また、サプライチェーンのグローバル化が進み、原材料や部品の調達先も多様化しています。
これらが見積プロセスをますます複雑化させ、標準化を妨げる大きな要因になっています。
見積プロセスの属人化を脱却するためのヒント
属人化から脱却するためには、まずは、見積プロセスの「標準化」が必須です。標準化するためには、理想となるモデル(プロセス)が必要になります。
理想となるモデルは、どのように検討していけばよいのでしょうか?
実は理想的なモデルの候補は、多くの場合、自社内に存在します。次の手順で、理想的なモデルを考えていきます。
現状、見積担当者はどうしているのかを確認する
ケーススタディーとして、次のAさん、Bさん、Cさんという3人の見積担当者の思考方法を推測してみましょう。
Aさん...現場での経験が豊富な職人型のAさんは、自分の経験から積算するタイプです。長年の勘と経験を活かして見積を作成します。
Bさん...生産技術部門を経験したBさんは類似モデルから積算するタイプです。過去の見積を参考にして、仕様の変更点などをチェックして見積もります。
Cさん...設計部門の経験者のCさんは、データを集めて積算するタイプです。図面に基づいて最新の部品表や工程表などをチェックして、原価を積算します。
このように、見積の進め方は、担当者がこれまでどの部門でどのような業務を経験してきたかによって大きく異なります。
「理想的なモデル」は社内に存在する
三者三様の見積もりプロセスを「標準化」するとどうなるでしょうか。
直接費や間接費の算定方法・基準が統一されることで、Aさん、Bさん、Cさんが同じ精度で積算できるようになります。「見積作成者によって損益分岐点がブレる」といったことがなくなります。
では、どの見積プロセスで「標準化」すればよいのでしょうか。
Aさん、Bさん、Cさんのやり方を比較すると、図面を起こし、最新の原価を確認し、工程を検討して積算するCさんの手法が、3つの中ではもっとも正確な見積になる可能性が高いでしょう。
Cさんのやり方をいわゆる「ベスト・プラクティス」とし、これを基準に見積プロセスを標準化することで、業務の属人化からの脱却が期待できます。
「理想的なモデル」を「標準化」する
社内の「ベスト・プラクティス」ですが、標準化は簡単ではありません。ここでは、たとえばCさんの見積プロセスを基準にして、見積プロセスを標準化していくと仮定しましょう。対象とするのは、ベースモデルを基に顧客企業の要望に応じてカスタマイズする「準標準品」の見積プロセスです。
この場合の見積プロセスは、大きく次の3つのステップで行っていきます。
- 1.
-
技術検証
ベースとなるモデルを基に図面を作成し、生産の可否を検討する。
- 2.
-
材料費調査
変更になる部品構成を洗い出し、追加・変更・削除する部品の最新単価を調査する。
- 3.
-
労務費・直接経費調査
変更になる工程を洗い出し、追加・変更・削除される工程の経費、労務費を調査する。
以上を基に原価を積算していきます。標準化が難しいとされる受注生産型製造業での見積プロセスですが、準標準品であれば、各業務をある程度までデジタル化することで、標準化できるのではないでしょうか。
ただしアナログ業務をデジタル化する作業は、簡単なことではありません。属人化したプロセスの中でもデジタル化が難しいのが、「技術検証」のプロセスです。
生産の可否を判断するためには、生産可能な部品の組み合わせかどうかを検討し、それが困難な場合は、特注品という扱いをする必要があります。
また、BOM(部品表)やBOP(工程表)といったデータベースを整備する必要も生じます。
このようにベースモデルの見積プロセスの標準化だけでも大きな労力が必要になり、「産みの苦しみ」は小さくはありません。
ですが、一度、ベースモデルができあがれば、それを水平展開することが可能なり、ほかの製品の見積プロセスの標準化を加速することができます。
属人化の3つのリスクを避けるために
見積プロセスの属人化には、機会損失、競争力低下、ノウハウ消失の3つのリスクが潜んでいます。このリスクを避けるためには、社内の「ベスト・プラクティス」を「標準化」する必要があります。
複雑化した見積プロセスの「標準化」はデジタル化することなしに実現することは不可能でしょう。
近年、Configure(製品構成)、Price(価格設定)、Quote(見積もり作成)の頭文字を取ったCPQソリューションが注目されています。
CPQソリューションを使用する場合、自社で開発するか、パッケージを利用するかのいずれかになりますが、自社開発の場合は自社のプロセスに合わせたシステムにできる一方で、開発コストに加え、メンテナンスのコストも発生します。
価格の変動などに迅速に対応する必要があるCPQソリューションでは、メンテナンスが不十分だと、「使われないシステム」になってしまう恐れがあります。
一方、最新のCPQソリューションでは、メンテナンス業務を担当者レベルで行えるサービスも存在します。
システムのメンテナンスはIT部門が担当することが一般的ですが、ユーザー側でメンテナンスすることで、変化に迅速に対応できるだけでなく、IT部門の負荷を軽減することができます。
受注生産型製造業の属人化した見積プロセスを脱却し、標準化を実現するためには、CPQソリューション導入が必須といえるのではないでしょうか。
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