製造業の業績と投資動向[2023年版ものづくり白書より]

コロナ禍やエネルギー価格の高騰など、昨今の製造業をめぐる状況は目まぐるしく変化しています。そうした中、製造業はどのような分野に投資を行っているのでしょうか。本記事では、経済産業省が公表している「2023年版ものづくり白書」の内容を中心に、直近の製造業の業績や設備投資の動向について解説します。

製造業は日本経済発展の原動力であり、グローバル化や技術革新によりビジネス環境が大きく変化する中で、国際競争力の維持・向上が不可欠となっています。
本章ではまず、日本の製造業をめぐる現状を認識するため、経産省の「2023年版ものづくり白書」の内容を中心に、日本のマクロ経済環境や製造業の立ち位置、業績の動向などについてご紹介します

日本の実質GDP成長率の推移

近年の日本の実質GDP成長率をみると、2020年には新型コロナウイルスの感染拡大の影響もありマイナス4.2%の落ち込みを記録しました。これは1980年以降、リーマンショック期の2009年(マイナス5.6%)に次いで大きなマイナス成長です。しかし、四半期別にみると、2020年第3四半期には個人消費の持ち直し等が寄与し、前期比でプラス5.6%(年率プラス24.5%)の成長率を記録しました。

年率でみると、2021年には実質GDP成長率がプラス2.2%に回復するなど、新型コロナウイルスの感染拡大は徐々に落ち着きをみせ、社会・経済活動の正常化の動きが進んでいます。一方で、2022年にはロシアによるウクライナ侵攻などの影響から、エネルギー資源をはじめとする原材料価格の高騰に見舞われたことは記憶に新しいところです。加えて、円安によって輸入価格が高騰するなど、国内外でさまざまな経済環境の変化が起きています。

日本における製造業の位置づけ

日本の製造業は、GDPの2割程度を占める重要な基幹産業です。また、平均賃金水準は全産業の中でも高く、雇用規模が非常に大きい特徴があります。このことから、製造業の業績動向は日本国内の雇用環境や賃金水準を左右する大きなファクターであると言えます。製造業の中では、輸送用機械、化学、生産用等機械、情報通信機械、電気機械、一次金属といった分野の賃金水準が高く、雇用規模も大きいことが特徴です。

なお、製造業全体の売上高は400兆円程度であり、自動車(17%)、化学(11%)、食品(10%)、情報通信機械(8.5%)、電気機械(7.4%)、生産用機械(6.4%)でおよそ3分の2を占めます。
製造業の中では特に、輸送用機械における自動車産業のすそ野が非常に広いことで知られています。典型的な組立産業である自動車では、多数の部品や付属品が必要であり、それらを製造する多種多様な企業が存在することがその理由です。

製造業の業況

製造業の1人当たり名目労働生産性は、2021年には1,077万円となっており、これは全産業(815万円)の約1.3倍の数字です。推移をみると、2011年から上昇傾向にあり、2015年に始めて1,000万円を突破。しかし、それ以後は1,000万~1,100万円程度の幅で横ばいとなっています。なお、労働生産性とは労働による産出量(アウトプット)を投入量(インプット)で割ったものであり、通常は労働時間1時間あたり、もしくは労働者1人あたりの産出量で計算します。

企業の全般的な業況の指標となる日本銀行「全国企業短期経済観測調査」の業況判断DIをみると、大企業製造業では原材料価格の高騰などの影響により、2022年第1四半期から5四半期連続で悪化。中小企業製造業では、2022年第2四半期以降、緩やかに改善していましたが、2023年第1四半期に入ると、再度悪化しています。

製造業の売上高と営業利益の動向

営業利益について、財務省「法人企業統計調査」の結果をみてみると、2022年は製造業全体で約19.0兆円となっており、過去10年で最も営業利益の金額が大きくなっています。本調査は資本金1億円以上の事業者の四半期の営業利益を集計したものであることから、大企業においては業績が上向きになっていることがうかがえます。

では、中小企業も含めた製造業全体の景況感はどうでしょうか。中小・小規模事業者も含めた製造業の直近1年間における売上高と営業利益の動向をみてみると、2022年度の売上高について、「増加」または「やや増加」を挙げる企業の割合が約5割である一方で、営業利益については、「増加」または「やや増加」を挙げる企業の割合が約3割にとどまっています。

また、2022年度の調査における売上高と営業利益の動向を資本金別に比較すると、いずれも、資本金が高いほど「増加」「やや増加」の割合が高い傾向にあります。

売上高の増減の要因をみると、それぞれ販売数量の増減が大きな要因となっています。また、売上高の増加要因については、「販売単価の上昇」の影響も大きくなっています。営業利益の増減の要因をみると、いずれも売上高やコストの増減の影響が大きな要因となっており、特に営業利益の減少については、「売上原価(仕入値)の上昇」や「コスト(販管費)の増加」の影響が大きいことが読み取れます。

製造業に関する貿易の動向

財務省「貿易統計」をみると、貿易収支については、輸送用機器及び一般機械の黒字幅が拡大しています。一方で、鉱物性燃料、食料品及び原料品の赤字幅の拡大により、2022年の収支総額はこれまで最大だった2014年を超える約20.0兆円の貿易赤字となりました。

このように貿易赤字は拡大している一方で、経常収支は黒字を維持しています(2022年:約11.4兆円)。経常収支は貿易収支のほか、第一次、第二次所得収支およびサービス収支で構成されており、このうち第一次所得収支が大幅な黒字(2022年:35.3兆円)を記録していることで、経常収支が黒字となっているのです。このように、貿易赤字が大幅に増えていることから、かつてのような「貿易立国・日本」の姿はもはやなく、海外からの投資収益が経常収支を支えている状況であると言えます。

次に、製造業における設備投資動向についてご紹介します。

日本における設備投資額の推移

日本の設備投資額の推移をみると、2020年前半に新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響等により減少し、同年第3四半期に底を打った後、2022年第2四半期には新型コロナウイルス感染症の感染拡大前の水準を上回り、増加傾向が続いています。

製造業の設備投資の過不足感

日本銀行「全国企業短期経済観測調査」の業況判断DI、および生産・営業用設備判断DIをみると、製造業では、2021年から新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響が緩和されたことなどを受け、業況判断がプラスに回復していました。しかし、2023年第1四半期に入ると、業況判断はマイナスに悪化しています。また、設備判断は2020年には過剰感が強かったものの、2021年第4四半期からは過剰感が弱まっています。

製造業における設備投資額

財務省「法人企業統計調査」をみると、製造業における設備投資額は2013年から2019年にかけて増加傾向にあり、2018年第一四半期以降は4兆円を超えています。2020年には新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響を受け投資額は低下したものの、2021年第2四半期からは新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響が緩和されたことなどを受け、増加傾向が続いています。

また、有形固定資産と無形固定資産への設備投資額の推移をみると、無形固定資産への投資額が顕著に増えています。増加率でみると、2022年には2015年比で約5割増加しており、有形固定資産の約1割と比べて高い増加率です。

製造業のIT投資(設備投資からソフトウェアを除く設備投資を引いた金額)の推移をみると、2022年は約1.7兆円と前年比で約0.2兆円の増加となっています。化学工業、生産用機械器具製造業、電気機械器具製造業、情報通信機械器具製造業、自動車・同付属品製造業において前年に比べて増加しています。

製造業の投資判断の優先度

(株)日本政策投資銀行「全国設備投資計画調査」による広義の投資優先度をみると、国内有形固定資産投資、研究開発、人材育成・人的投資への優先度が高く、2018年度以降同じ傾向が続いています。

また、情報化投資は2018年から年々優先度が上がっており、生産現場でIT投資を行い、その成果として得られるデータを解析し、生産効率を上げるため、データサイエンティストといった専門人材を育成する取り組みも進んでいます。

製造業における設備投資の実態

製造事業者における設備投資の実態を把握することを目的として行われた調査において、2022年における大企業と中小企業の設備投資(有形固定資産・無形固定資産)の有無を比較すると、大企業は約9割、中小企業でも約8割の企業が有形固定資産投資を行っています。一方で、無形固定資産においては、大企業は約8割の企業が投資を行っているのに対して、中小企業は約4割にとどまっています。

総資産に対してどれだけ利益が出ているかを示す総資産営業利益率(ROA:Return on Assets)が高い企業群を抽出して、全製造事業者の投資動向と比較すると、2019年度と2020年度ともにROA上位10%に属する製造業の企業群においては、2020年度の無形固定資産当期取得額が2015年度比で約8割増加している。それに対して、全製造事業者では約2割の増加にとどまっている状況です。

また、有形固定資産当期取得額とROAの関係についても、2019年度、2020年度ともにROA上位10%に属する企業群は、2020年度は2015年度比で有形固定資産当期取得額が約3割増加している一方、全製造事業者では約1割の増加にとどまっています。

さらに、製造事業者が保有する、有形固定資産に対する無形固定資産の割合をみると、2019年度、2020年度ともにROA上位10%に属する企業群は、無形固定資産の割合が全製造事業者より高くなっています。

このことから、収益力のある製造事業者は、コロナ禍などの不確実性の高い状況においても、有形・無形固定資産投資を着実に進めていたことが分かります。

設備投資の目的

有形固定資産投資の目的について、2020年と2022年を比較すると、いずれの年においても、「老朽設備の更新・補強」、「生産設備の更新」といった設備の維持更新が多くなっています。2022年は2020年と比べて、システム化やDX関連の設備投資に該当する「旧来型の基幹システムの更新や維持メンテナンス」、「DX関連(工場のIoT化等)」に加え、GX関連の設備投資に該当する「脱炭素関連」が大きく伸びている点が違いとして挙げられます。

無形固定資産投資の目的についても、2020年と2022年を比較すると、いずれの年も、「業務効率化やコスト削減」、「旧来型の基幹システムの更新や維持メンテナンス」が多くなっています。また、2022年は2020年よりも、「DX関連(工場のIoT化等)」、「データの利活用による顧客行動や市場分析」が伸びているのが特徴です。

製造業におけるIT投資の実態

製造業の直近1年間におけるIT投資の実態を把握することを目的とした調査をみると、約5割の企業がIT投資を行っています。また、企業規模別にみると、大企業は約9割の企業がIT投資を行っているのに対して、中小企業は約5割にとどまっており、企業規模による取り組みの差がみられます。

具体的なIT投資の対象については、「全社的・部門横断的なシステム」が最も多く、次いで「生産管理」が多い状況です。

製造業における研究開発投資の実態

製造業の直近1年間における研究開発投資の実態を把握することを目的とした調査をみると、研究開発投資を行っている企業は約4割です。また、企業規模別に比較すると、大企業は約9割が研究開発投資を行っているのに対して、中小企業は約3割にとどまっており、企業規模による取り組みの差がみてとれます。

研究開発投資を行っている企業のうち、大企業はほぼ全ての企業、中小企業は約9割の企業が既存事業向けの研究開発投資を行っています。また、新規事業向けの研究開発投資は、大企業は約7割、中小企業は約5割の企業が行っています。

研究開発投資の目的をみると、既存事業向け、新規事業向けともに、「新製品・サービスの提供」が最も多く、次いで既存事業向けでは「業務効率化やコスト削減」、新規事業向けでは「ビジネスモデルの変革」が多くなっています。

しかし、近年では、グローバル化、市場ニーズの多様化、新興国の台頭等を背景として、製品のライフサイクルが短期化し、競争が激化してきました。このため、高付加価値な製品やサービスの創出をより早く実現するための手段として、複数の事業者が連携して研究開発に取り組むオープンイノベーションが重要となっています。(株)日本政策投資銀行「全国設備投資計画調査」をみると、製造業においてはイノベーションを推進するため、「研究機関との連携」、「研究開発予算の拡大」に取り組んでいる企業が多くなっています。

大企業を中心に、研究開発予算の拡大や、研究機関と連携する取組が進んでいますが、経営資源が限られる中堅・中小企業でも、地方自治体や地域金融機関との産学官金連携により、オープンイノベーションを推進する事例がみられるようになっています。

前章では、日本の製造業における設備投資動向についてみてきましたが、以下ではその内容を踏まえ、今後製造業が取り組むべき投資分野について解説します。

DX

AI(Artificil Intelliegnece、人工知能)やIoT(nternet of Things、モノのインターネット)をはじめとするデジタル技術が進展していることなどを背景に、多くの業界でDXの必要性が高まっています。製造業も例外ではなく、実際に前章でもみたように、近年は「旧来型の基幹システムの更新や維持メンテナンス」、「DX関連(工場のIoT化等)」の投資を行う企業の割合が伸びています。
本節では、DXが必要な背景や、DXを行うべき理由、DX分野における投資の内容・施策などをご紹介します。

DXを行わないことによる大きな損失―「2025年の崖」

日本でDXという用語が広く知られるきっかけとなったものの1つに、経済産業省が2018年に公表した「DXレポート」があります。このレポートでは、既存のシステムが老朽化していることに加え、事業部門ごとに構築されていることにより複雑化・ブラックボックス化していることを問題視し、2025年までにそうしたシステムを刷新できなかった場合、国際競争力の低下や国全体としての大規模な経済損失が発生するだろうと予想されています。経済産業省の試算によれば、レガシーシステムを刷新できなかった場合の経済損失額は2025年以降、最大で年間12兆円にのぼるとされており、2025年までにシステム刷新を集中的に推進する必要があると警鐘を鳴らしています。

製造業がDXを行うべき理由とメリット

「DXレポート」における「2025年の崖」からも明らかなように、DXを行わなければ競争力の低下や大きな経済損失を被ることが予想されますが、製造業がDXを行うべきより具体的な理由やそのメリットとしては以下のものが挙げられます。

①効率向上と生産性の向上:

自動化、ロボティクス、IoT、AIなどのテクノロジーを活用したDXを推進することで、生産ラインや生産プロセスを効率化できます。これにより、従来の手作業に比べてより迅速で正確な作業が可能となり、生産性が向上します。

②品質管理の向上:

センサーを用いたリアルタイムの品質監視やデータ解析など、品質管理の現場にDX技術を導入することで、製品の欠陥や異常を早期に検出し、品質を確保することが可能となります。

③カスタマーエクスペリエンスの向上:

DXを通じて、顧客とのコミュニケーションや顧客サポートのプロセスを改善することも可能です。顧客のニーズや要求に迅速かつ柔軟に対応することで、顧客満足度を向上させ、競争力を維持・強化します。

④データ活用による意思決定の強化:

DXによって蓄積されるデータを活用することで、製造プロセスやサプライチェーンの可視性が向上し、意思決定の根拠を強化します。リアルタイムのデータ分析により、生産計画の最適化や在庫管理の最適化など、より効果的な経営判断が可能となります。

⑤人手不足の解消:

少子高齢化を背景に、製造業をはじめ多くの現場で人手不足が大きな課題となっています。DXの推進により自動化や業務効率の向上を実現することで、より少ない人員で業務を遂行できるようになり、人手不足の解消に貢献します。また、省人化が進むことで人件費の削減にも寄与します。

⑥技術の継承:

人手不足や既存の作業員の高齢化により、製造業の現場では技術の継承がスムーズに行われないことが危惧されています。DXを通じて、例えばベテランの作業員の作業工程を動画や写真などにおさめ、データ化することでノウハウを可視化でき、経験の浅い作業員でも技術を習得しやすくなります。

インダストリー4.0とスマートファクトリーの推進

製造業の工程にIoTやAIなど先端技術を導入し、生産の自動化やデジタル化・ネットワーク化が進んだ状態を「インダストリー4.0」と呼びます。インダストリー4.0は、過去に社会や経済に大きなインパクトを与えてきた第1次産業革命(18世紀の蒸気機関の活用)、第2次産業革命(19世紀後半の石油・電力の活用)、第3次産業革命(20世紀後半のコンピュータを活用した自動化)に次ぐ「第4次産業革命」とも呼ばれています。

この第4次産業革命で実現されるのがスマートファクトリーです。スマートファクトリーは、デジタル技術を活用して生産プロセスを自動化し、効率化する生産施設を指します。スマートファクトリーでは、IoTの技術によって機器やセンサーがインターネットに接続され、リアルタイムでデータを収集・分析・共有することが可能となり、生産ラインの効率化や品質向上、省エネルギー化などが実現されます。また、クラウドベースのシステムが導入されることもあり、クラウドコンピューティングを利用することでデータの共有やリモートアクセスが容易になり、生産プロセスの柔軟性向上といった効果も期待できます。

このスマートファクトリーは、製造業のDXにおける代表的な施策と言えるでしょう。

GX

経済・産業構造や社会構造を化石由来のエネルギーからクリーンエネルギー中心に転換するGXも、DXと並んで製造業における重要な投資分野として近年注目を集めています。

GXが求められている背景

GXが求められている背景として、気候変動問題に向けた取り組みが世界的に加速していることが挙げられます。干ばつや大雨、台風の大型化など、世界各地で気候変動によるとみられる被害が報告されている中、多くの国が二酸化炭素などの温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」の目標を掲げており、2021年4月現在、125カ国・1地域が2050年までにカーボンニュートラルの実現を表明しています。

例えばアメリカでは、バイデン政権が2050年までに温室効果ガス排出を実質ゼロに、2035年までに発電部門の温室効果ガス排出をゼロに移行することを掲げているほか、EUでは2050年のカーボンニュートラル実現に向けて、2030年には1990年比で温室効果ガス排出量を少なくとも55%減少させることを掲げています。
日本でも、2020年10月に菅総理(当時)が「2050年カーボンニュートラル宣言」を行い、2021年10月に発表された「第6次エネルギー基本計画」においてカーボンニュートラルに向けた筋道が示されました。さらに、2022年10月には岸田総理が、今後10年間で150兆円超の官民GX投資を進めていく旨を表明しており、GX投資の機運が非常に高まっている状況です。

加えて、近年は地政学的リスクによるエネルギー価格の高騰も課題となっており、従来のように化石燃料に依存した産業構造を転換する必要性がかつてないほど高まっています。
こうしたことから、製造業においてGXは非常に重要な投資先であると言えます。

脱炭素への意識が高まっている製造業の企業

では、日本の製造業の企業は脱炭素への取り組みに積極的なのでしょうか?

「ものづくり白書」をみると、製造事業者に対してサプライチェーンの安定化に向けた取り組みについて尋ねた調査において、これまで実施してきた取り組みとして、「調達先の分散」や「国内生産体制の強化」といった項目を挙げる企業が多かったものの、これから実施する取り組みとしては、過半数の大企業が「脱炭素への対応」を挙げています。

また、前年と比較した脱炭素に向けた取り組みの重要性の変化については、重要性が「大きく増している」または「増している」と回答した割合は中小企業で約3割、大企業では約8割となっています。このことから、特に大企業において脱炭素に向けた取り組み意識が高まっていることがうかがえます。

なお、脱炭素の取り組みを進める背景としては、大企業、中小企業ともに、「企業イメージの向上のため」と「顧客企業(BtoB)からの要請」の割合が大きくなっています。

製造業がGXを行うことのメリット

製造業の企業がGXの取り組みを進めることのメリットとしては以下のものがあります。

①環境への負荷軽減:

脱炭素活動は地球温暖化や気候変動といった環境問題への対策として重要です。企業が二酸化炭素排出量を削減することで、環境への負荷を軽減し、持続可能な社会の実現に貢献できます。

②法規制への対応:

前述のように、多くの国が将来的なカーボンニュートラル実現の目標を掲げていることから、二酸化炭素排出量の削減を求める法規制が強化されています。この流れは今後も加速することが予想されますが、脱炭素活動を進めることでこうした法規制に対応しやすくなり、法的リスクを軽減して円滑な企業活動を行いやすくなります。

③企業やブランドイメージの向上:

GX投資を通じた環境への配慮や社会的責任の実践は、企業のイメージを向上させる要因となります。脱炭素の取り組みを積極的に行うことで、顧客や投資家、取引先等からの評価が高まり、資金調達や受注など経営上のさまざまな面で恩恵を受けられる可能性が高まります。

④コスト削減:

GXによってエネルギー効率を改善し、再生可能エネルギーへの移行を促進することで、エネルギー使用に伴うコスト削減を実現できる可能性が高まります。特にエネルギー価格が高騰している昨今においては、エネルギーコスト削減の効果は大きいでしょう。

⑤新たなビジネス機会の創出:

脱炭素の取り組みは、新たな技術やサービスの開発にもつながります。再生可能エネルギーの開発や省エネ技術の導入など、環境技術分野において新たなビジネス機会が生まれる可能性があります。

海外直接投資

海外直接投資も、製造業にとって有望な投資の1つです。経済産業省が2023年5月に発表した「製造業を巡る現状と課題 今後の政策の方向性」によると、製造業の海外直接投資残高は、2015年には65兆円でしたが、2021年には79兆円と増加傾向にあり、直接投資の収益率(直接投資収益÷直接投資残高)は10%弱をキープしています。

また、日系製造業の売上高のうち、海外現地法人による売上の割合は、2013年から2020年にかけて約4割を維持しており、売上全体に占める国内の割合が継続的に低下していることからも、海外事業の重要性が高くなっていることが分かります。

輸出から直接投資への移行

同じく「製造業を巡る現状と課題 今後の政策の方向性」によると、海外現地法人からの受取収益は、2008年に輸出による営業利益を上回り、以後そのトレンドは継続しています。つまり、外貨獲得の手段は輸出から海外直接投資がメインのモデルへと移行しているということです。日本は人口減少トレンドに入っており、今後国内需要が急増することは考えにくいことからも、海外直接投資の重要性は高まっていると言えます。

ただし、直近は円安の傾向が続いており、今後さらに円安が進む可能性もあることから、輸出による収益が改善することも考えられます。円安トレンドが続く場合には、国内拠点への投資の重要性が増す可能性があることには留意しておく必要があるでしょう。

なお、海外直接投資が国内産業の空洞化を招くのではないか懸念する声もしばしばあります。
しかし、「製造業を巡る現状と課題 今後の政策の方向性」で参照されている先行研究によれば、海外直接投資の増大が国内雇用の喪失につながっているという主張は支持されておらず、むしろ雇用を創出する効果もあることが示唆されています。海外直接投資と国内の雇用の喪失や空洞化の関係については、エビデンスベースで客観的に分析する必要があります。

新型コロナウイルスの感染拡大が落ち着き、社会・経済活動が正常化したことを受けて製造業の業績は回復傾向にありますが、原材料価格の高騰などの影響を受けて業績が横ばい、もしくは低下している企業も少なくありません。

設備投資については全体として増加傾向が続いており、特に無形固定資産への投資が伸びています。ITやDX関連の積極的な投資も、近年顕著にみられる傾向です。とはいえ、大企業に比べると、中小企業は無形固定資産投資やITへの投資に取り組んでいる企業の割合が少ないなど、企業の規模や業績等によって投資姿勢には違いがみられます。

また、世界的にカーボンニュートラル実現に向けた取り組みが加速していることを背景として、DXに加えGXも大きな投資の選択肢となります。加えて、海外直接投資の重要性が高まっていることも昨今の製造業における投資の特徴と言えるでしょう。


本記事の内容をグラフや図を用いて分かりやすく説明した資料を下記よりダウンロードいただけます。

お役立ち

製造業における技術革新と設備投資

近年、世界に影響を与える予測不能なできごとが相次いで発生しています。世界の経済事情が厳しさを増す中でも、 我が国製造業は、雇用の約2割、GDP の約2割を支える我が国経済の屋台骨となっています。


本資料では、製造業の現在の経済状況、技術革新の重要性、および設備投資の動向について解説します。

関連する記事

関連ソリューション

関連事例

お問い合わせ

CONTACT

Webからのお問い合わせ
エクサの最新情報と
セミナー案内を
お届けします
ソリューション・サービスに関する
お電話でのお問い合わせ

平日9:00~17:00※弊社休業日を除く