製造業における人材確保・育成動向[2023年版ものづくり白書より]

デジタル化をはじめとする技術革新や、少子高齢化に伴う人材不足など、製造業をめぐる動向は目まぐるしく変化しています。そうした中で、製造業が時代の変化に即した形で人材を確保・育成するためにはどうすれば良いのでしょうか。本記事では、経済産業省が公表している「2023年版ものづくり白書」の内容を中心に、製造業における就業動向や人材の確保・育成の動向などを解説します。

日本の製造業は、GDPの約2割を稼ぎ出すほどの大きな規模を誇っており、産業全体としてのサプライチェーンのすそ野も広いことから、日本の雇用を支える非常に重要な産業となっています。

そうした製造業の雇用状況や就業の動向はどのようになっているのでしょうか?本章では、経産省が公表している「2023年版ものづくり白書」の内容を中心に、日本全体の就業動向を概観し、ものづくり人材の雇用と就業動向について解説します。

日本の雇用・失業情勢

まずは近年の日本全体の雇用・失業情勢についてみていきます。日本の雇用・失業情勢は、リーマンショック後の2009年に大きく低迷しました。この年の7月には、完全失業者数(季節調整値)は過去最高水準の364万人となり、完全失業率も5.5%を記録するなど、大きな景気低迷を経験しました。
その後、新型コロナウイルスの感染拡大前の2019年にかけて、雇用・失業情勢は徐々に回復していきます。完全失業者数は2019年12月には156万人にまで減少し、完全失業率も2.2%にまで低下しました。
その後、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響もあり、完全失業者数は一時200万人を超えたものの、2023年2月時点では180万人と減少傾向で推移しています。
完全失業率に関しても、コロナ禍の2020年8月にはおよそ3年ぶりに3.0%を超えましたが、その後は低下傾向で推移し、直近の2023年2月は2.6%となっています。

有効求人倍率と求人数の動向

有効求人倍率(季節調整値)をみてみると、2010年以降上昇し、2018年9月に1.64倍を記録しましたが、その後、2020年にかけて低下し、同年9月には1.04倍となりました。この背景には、2018年後半から激化した米中貿易摩擦や、2020年の新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴う社会経済活動の停滞などが挙げられます。特に、コロナ禍は製造業のほか、宿泊業・飲食サービス業等の業況を悪化させる結果となりました。

しかし、2020年9月以降は社会経済活動が徐々に活発化し、長期的に続く人手不足の傾向もあって再び上昇基調に転じ、直近の2023年2月の有効求人倍率は1.34倍と、求人が求職を上回って推移する状況となっています。


主要産業別の新規求人数をみると、新型コロナウイルス感染症の感染拡大等の影響を受けた2020年の上半期には、宿泊業・飲食サービス業をはじめとする幅広い産業で顕著な落ち込みがみられました。しかし、2020年下半期以降はマイナス幅が減少基調に転じ、おおむねすべての産業で新規求人数は増加傾向にあります。


次に、中小企業における産業別の従業員数における過不足状況(従業員数過不足DI※)をみると、全産業では2017年第4四半期から2019年第4四半期までマイナス20.0台で推移しており、人手不足が顕著な状態でした。


※従業員数過不足DIは、今期の従業員数が「過剰」と答えた企業の割合(%)から、「不足」と答えた企業の割合(%)を引いたものであるため、マイナスの値が大きいほど人手不足が深刻化していることになります。


その後、新型コロナウイルスの感染拡大が始まった2020年第1四半期からはマイナス幅が縮小し、同年第2四半期にはマイナス1.1と不足感が弱まりましたが、以降は一転してマイナス幅が拡大に転じ、直近の2023年第1四半期ではマイナス21.4と、コロナ禍前以上に人手不足の状況となっています。


製造業に関しては、2017年第4四半期から2019年第1四半期までマイナス20.0台で推移していましたが、同年第2四半期からマイナス幅が縮小し、2020年には一時プラスに転じました。その後、2021年第1四半期にはマイナス3.7と再び不足状態となり、直近の2023年第1四半期の従業員数過不足DIはマイナス20.9と、コロナ禍前に近い水準で人手不足の状況となっています。

就業者数の動向及び就業者の構成

全産業の就業者数は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大による影響もあり、2019年から2020年にかけて減少したものの、2021年に6,713万人、2022年に6,723万人と増加しています。

製造業の就業者数については、2019年(1,068万人)から2021年(1,045万人)にかけて減少したものの、直近においては、2022年が1,044万人と横ばいで推移している状況です。

全産業に占める製造業の就業者の割合は、2002年に19.0%でしたが、その後低下傾向で推移しており、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けた2020年以降においても、その傾向に変化はみられません。直近の2022年における割合は15.5%となっています。


製造業の若年就業者数(34歳以下)は、2002年から2012年頃まで減少基調が続き、以降はほぼ横ばいで推移しており、直近の2022年は255万人です。製造業の若年就業者の割合をみると、2002年には30%を超える水準でしたが、2022年には25%程度となっています。


一方、製造業における高齢就業者数(65歳以上)は、2002年には58万人でしたが、以降2018年までおおむね増加傾向で推移しています(2018年の高齢就業者数は94万人)。2018年以降はほぼ横ばいとなっており、直近の2022年は90万人でした。製造業における高齢就業者の割合は、2002年には4.7%でしたが、直近の2022年は8.6%と増加しています。


製造業における新規学卒者数は、2013年(13.0万人)以降、増加傾向で推移していますが、直近の2021年は2020年(16.6万人)より約2.7万人減の13.9万人となっています。また、新規学卒者の製造業への入職割合は、2000年には17.3%でしたが、以降は低下傾向にあり、直近の2021年には9.5%となっています。

労働環境・就労条件の動向

国内の製造業の労働時間の推移をみると、製造業の事業所規模5人以上の事業所における労働者(一般労働者)1人当たりの総実労働時間は、2010年の168.1時間から徐々に増加し、2018年には170.8時間となっています。その後、2019年4月に働き方改革関連法が施行され、全業種での年5日の有給休暇取得が義務化されたことや、大企業において残業時間の上限規制が導入されたことにより減少に転じ、2022年の総実労働時間は164.3時間となっています。


全産業および製造業における一般労働者の賃金(所定内給与額)の推移をみると、2014年以降は、それぞれ上昇傾向で推移し、直近の2022年には、全産業における賃金は約31万2千円であるのに対し、製造業の賃金は約30万2千円となっています。


全産業と製造業の賃金の差に着目すると、製造業の賃金は、全産業の賃金を一貫して下回っています。加えて、両者の賃金の差額は2006年時点では約2千円(全産業:30万2千円、製造業:30万円)でしたが、2022年においては約1万円と差が広がっています。

製造業(ものづくり)に携わる人材が持つスキルは、製造業の競争力の源泉であり、適切な能力開発を通じて付加価値の高い人材を育成することが不可欠です。本章では、前章と同様に「2023年版ものづくり白書」の内容を中心に、ものづくり人材の能力開発の現状についてご紹介します。

製造業における能力開発の現状

職場内で実務を通して技術や知識を見つけるOJT(On the Job Training)は、教育コストが比較的低く、必要なタイミングで上司や先輩から適切なフィードバックを得られる能力開発の方法として普及しています。

また、現場を一時的に離れて座学を中心に研修を受けるOff-JT(Off-The-Job Training)は、業務を遂行するうえで必要となる普遍的・汎用的な基礎知識を習得するのに役立ちます。

本節では、製造業におけるOJT やOff-JTによる能力開発の状況を中心にみていきます。


製造業における計画的なOJTを実施した事業所の割合をみると、正社員は、2008年度調査からおおむね6割前後の水準で推移しています(直近の2021年度調査では60.6%)。全産業と比べてやや高い水準で推移しており、製造業の正社員への計画的なOJTは、相対的に盛んに行われていることがうかがえます。

一方、正社員以外は、2008年度調査以降20%台で推移し、全産業と比べ低い水準で推移しています。特に2018年度調査(28.3%)から2020年度調査(20.1%)にかけて低下し、直近の2021年度調査では21.1%となっています。


次に、製造業におけるOff-JTを実施した事業所の割合をみると、正社員は2008年度調査(76.4%)からおおむね7割で推移し、全産業とほぼ同水準となっています(直近の2021年度調査は70.4%)。一方、正社員以外は、一貫して全産業より低く、2008年度調査(30.6%)以降はおおむね30%を下回る水準で推移し、近年では大きく落ち込んでおり2021年度調査では23.7%となっています。


自己啓発を行った労働者の割合をみると、正社員については、2008年度調査(57.1%)以降、おおむね全産業より製造業がやや低い水準で推移しており、いずれも2008年度調査から2009年度調査にかけて大きく落ち込んで以降は、ほぼ横ばいで推移しています。直近の2021年度調査の製造業における自己啓発を行った正社員の割合は、42.7%となっています。


一方、正社員以外の自己啓発の実施状況についても、全産業より製造業がおおむね低い水準で推移しています。割合としては、正社員と同様に2008年度調査(30.6%)から2009年度調査(17.9%)にかけて落ち込んで以降は、ほぼ横ばいで推移している状況です。なお、直近の2021年度調査における割合は22.3%となっています。

製造業における能力開発の課題

製造業において、能力開発や人材育成について問題があるとした事業所の割合は、近年一貫して7割を超えており、2021年度調査は84.8%と、2008年度調査以降で最も高くなっています。全産業と比較しても一貫して高い数字です。


次に、製造業における能力開発や人材育成の問題点の内訳をみると、「指導する人材が不足している」が62.4%と最も高く、次いで「人材育成を行う時間がない」(46.6%)、「人材を育成しても辞めてしまう」(39.6%)、「鍛えがいのある人材が集まらない」(33.1%)の順となっています。特に、「指導する人材が不足している」、「鍛えがいのある人材が集まらない」については、全産業と比較しても高い数値です(全産業では、「指導する人材が不足している」は60.5%、「鍛えがいのある人材が集まらない」は23.6%)。


また、製造業における技能継承の取り組み内容としては、「退職者の中から必要な者を選抜して雇用延長、嘱託による再雇用を行い、指導者として活用している」(53.9%)の割合が最も高く、次いで「中途採用を増やしている」(48.0%)、「新規学卒者の採用を増やしている」(28.2%)の順となっています。

製造業の現場では、指導する人材の不足も含めて人手不足という課題がある中で、退職者や中途採用者など、すでに一定の能力・スキルを持つ人材の確保によって対応している事業所が多いことがうかがえます。

製造業の企業が重要と考える能力・スキル

製造業において企業が最も重要と考える能力・スキルをみると、正社員(50歳未満)については、「チームワーク、協調性・周囲との協働力」の割合が59.6%と最も高く、次いで「職種に特有の実践的スキル」(46.2%)、「課題解決スキル(分析・思考・創造力等)」(45.7%)、「コミュニケーション能力・説得力」(30.8%)、「マネジメント能力・リーダーシップ」(29.5%)の順となっています。

また、正社員(50歳以上)については、「マネジメント能力・リーダーシップ」が59.3%と最も高く、次いで「課題解決スキル(分析・思考・創造力等)」(46.9%)、「チームワーク、協調性・周囲との協働力」(38.7%)、「コミュニケーション能力・説得力」(35.8%)の順となっています。


正社員以外については、「チームワーク、協調性・周囲との協働力」が57.8%と最も高く、次いで「職種に特有の実践的スキル」(39.2%)、「定型的な事務・業務を効率的にこなすスキル」(36.5%)、「コミュニケーション能力・説得力」(28.8%)の順となっています。

ここまでみてきたように、製造業では人手不足の状況が厳しさを増しており、20年前と比べると若年労働者の割合が低下し、高齢労働者の割合が増加しています。また、能力開発や人材育成について課題を抱えている企業も少なくありません。

このような製造業における内部的な事情に加え、AIやIoTをはじめとするデジタル技術の発展、グローバル化の進展、地政学的リスクの顕在化や円安の進行による資源価格・原材料価格の高騰およびインフレなど、近年は製造業を取り巻く外的要因も大きく変化しています。


また、近年はしばしば「VUCA」(ブーカ)の時代と言われます。「VUCA」とは、「Volatile(変動性の高さ)」、「Uncertain(不確実)」、「Complex(複雑)」、「Ambiguous(曖昧)」の頭文字を取った造語であり、将来予測が難しく、先行き不透明で変化の大きな状態という意味です。2010年代からビジネスの現場で多く使われるようになり、企業が現代社会を生き抜くうえで知っておきたいキーワードの1つです。

「VUCA」の時代において、企業や組織は従来のような安定した社会・経済情勢とは異なり、高い柔軟性や適応性が求められます。また、強いリーダーシップや将来を見据えた的確な戦略策定、迅速な意思決定の能力なども問われます。


不確実性や複雑性が増している現代社会では、上記のような素養・スキルを有する人材の確保・育成が不可欠ですが、そのためのハードルが高いことも事実です。

では、このような状況の中で、製造業はどのように人材育成を進めていけば良いのでしょうか。前章までにご紹介した雇用と就業の動向や、人材育成に関する課題、さらに製造業を取り巻く環境変化などを踏まえると以下の方向性がみえてきます。

デジタル化への対応

IoTやビッグデータ、AI、ロボットなど、最近のデジタル技術の進歩には目を見張るものがあります。製造業においては、こうした先端技術を活用してエンジニアリングチェーンやサプライチェーンをネットワーク化・最適化・⾃動化する「ものづくりのスマート化」や、効率的で安全性の高い産業保安業務を実現する「スマート保安」などが注目されています。このように、先端技術を導入して生産の自動化やデジタル化・ネットワーク化を実現する製造業のあり方は「インダストリー4.0」とも呼ばれ、今後、製造業が生き残るには不可欠の概念だと言えます。


こうしたテクノロジーの進化とそれに伴う製造業のスマート化に合わせて、製造業で働く人材はデジタル化に対応することが求められるため、先端的なテクノロジーを理解し、活用するための人材育成やトレーニングが必要となります。デジタル化によって得られるデータを分析し、生産プロセスの改善や品質管理を行うためのスキルも重要となるでしょう。

技能人材の育成と技術の継承

製造業では、機械の操作や製品の組み立てなどの技能が不可欠であり、これらの技能を持つ従業員の育成が重要です。ところが、作業がマニュアル化されておらず、熟練のスタッフの経験や勘を頼りにしているために属人化が発生している現場が少なくありません。こうした状態では、技能のスムーズな継承が難しくなります。


かつての製造業の現場であれば、非熟練の労働者が熟練労働者の作業内容を見よう見まねで学び、試行錯誤する中で長い時間をかけて自らのスキルに落とし込むことが一般的でした。いわば「仕事は盗んで覚えろ」「背中を見て覚えろ」といった職人気質的な考え方ですが、変化の速い「VUCA」の時代においては、最新の技術や知見がすぐに陳腐化するため、そうした技術継承の仕方ではどうしても時代の変化に対応するのが難しい課題があります。


また、「Z世代」とも呼ばれる現代の若年層は、効率性を重視する傾向や成長環境を重視する傾向があると言われており、教える側に明確かつ体系的に技能を伝える意識がないと、「この企業では効率的に成長できない」と見切りを付けられ、離職してしまう可能性さえあります。


加えて、前章でみたように、「指導する人材が不足している」「人材育成を行う時間がない」といった課題に悩まされている現場が多く、少子高齢化により若年層の人材確保も難しくなっている状況です。こうしたことから、技術継承に困難さを抱えている現場も珍しくなく、熟練労働者の退職に伴い技能が喪失するのを防ぐため、いかに効率的に次世代へと技術を伝えるかが問われています。

教育体系および体制の整備

前述のように、製造業では技術継承をはじめとする従業員の育成を、現場での試行錯誤によって学ばせるところも少なくありません。OJTと言えば聞こえは良いものの、実態としては「背中を見て覚えろ」という昔ながらの人材育成法を正当化しているだけのこともあります。

きちんとした教育体系が整備されていないと業務内容を効率的に教えることができず、技術の標準化が難しくなってしまいます。また、教育のカリキュラムが整備されていないと、「教える側」「教わる側」それぞれの力量や意欲によって教育の内容・質が大きく変わってしまう傾向もあります。


こうした教育・指導のムラをなくし、標準化した技術を身につけさせるためには、OJTに座学を組み合わせた体系的なカリキュラムを整備することが重要です。また、業務内容ごとにマニュアルを整備し、ノウハウを可視化することも効果的です。


人材の育成を現場に任せるだけでなく、ステップバイステップで着実に技能を身につけられるような教育プログラムのあり方を、会社として検討する必要があるでしょう。

若年層の確保と育成

これまでも指摘してきたように、製造業では将来的な人材不足の深刻化が懸念されており、若年層の採用と育成が極めて重要です。若年層の確保や育成を進めるためには、就業期間に応じた明確なキャリアパスを提示し、成長できる環境を提供することが必要となります。

例えば、入社1年でAという作業をマスターし、次の1年でBの作業をマスターする。そして3年後には機械Cと機械Dでの業務も行えるようにする、というように、年数ごとに何の能力を身につけさせるかを具体的に示すとともに、「単能工から多能工へ」といったキャリアアップを意識させることが重要です。また、公平で客観的な人事評価制度を導入し、能力の向上に応じてしっかりと昇給・昇進ができる仕組みを整える必要もあります。


このほか、地元の大学の工学系の学部や高専、工業高校など、若年人材の供給源となる教育機関と連携を進め、自社の魅力や業務内容などをしっかりと伝えることで、有望な人材を確保し、ミスマッチを防ぐことも重要です。

前章でご紹介したような方向性を踏まえ、適切な人材育成を行おうとしても、実際には以下のような問題から育成がうまくいかないことがよくあります。

ベテラン従業員の業務負荷が過剰になっている

現場での教育役は熟練技術を持つベテランの従業員が担うことがよくありますが、ベテランの従業員の技術は現場で重宝されており、どうしても多くの業務を抱えて多忙になりがちです。そのため、なかなか教育のための時間をさけない課題があります。実際に、先の「ものづくり白書」の調査においても、人材育成の課題として「人材育成を行う時間がない」と回答している企業が半数近くにのぼっています。


この問題の解決策として、ベテランの従業員にしかできない業務に専念させ、他の従業員でもできる作業は行わないことで時間を捻出するという方法があります。マネジメント層としては、その結果生産性が多少下がったとしても、教育に注力することが大事だという空気を醸成するとともに、人材育成の重要性をベテラン従業員にしっかりと伝える必要があります。

目的のない詰込み型教育を行っている

OJTだけでなくOff-JTが重要だと認識していたとしても、Off-JTのような座学の場で無目的に詰め込み教育を行ってしまうケースも珍しくありません。

例えば、製造業の現場で基本とされる「5S」(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)について教える場合、どのような目的で実施するのか、実際の現場でどのように役に立つのか、会社にとってどのような利益をもたらすのか、といったことを明示しないまま定義だけを教えても意味はありません。


知識を詰め込むだけでなく、「この知識を覚えることがなぜ必要なのか」というWhyの観点から、従業員自身に考えさせることが重要です。

フォローやフィードバックがなく「やりっぱなし」になっている

教育の体制を整えたとしても、教育を実施した後にフォローやフィードバックがなく、「やりっぱなし」の状態になってしまっていることもよくあります。研修を受けた後に何のフォローもないと、真剣に受けても適当に受けてしまっても違いはなく、学んだことを現場にフィードバックできなければ「現場を離れた期間、生産が滞っただけ」というように、プラスどころかマイナスの結果をもたらしかねません。


このように、研修を行うこと自体が目的化しているような状態に陥らないためには、「その研修を取り入れて以降、現場の生産性がどのくらい上がったか」といった定量的な成果を評価し、PDCAを回しながら改善を図っていくことが理想的です。

製造業に限らず、会社組織は新入社員から経営層までの階層構造になっており、階層ごとに異なるスキルや役割が求められます。そこで、人材を育成する際には階層ごとに育成の目的を設定し、各々に適した能力を養う必要があります。

以下では、階層別の育成の一例として、①新入社員から中堅社員へ、②中堅社員から管理職へ、そして③管理職から経営層へという3段階に分けて解説します。

①新入社員から中堅社員への育成

新入社員は、まずは製造プロセスや自社の業務に関する基本的な知識や技術を習得する必要があります。OJTによる実践とOff-JTを組み合わせた体系的な教育を通じて、製品や製造プロセスに関する理解を深め、実務的な技術を身につけていきます。マニュアルを整備するなど、効率的にノウハウを習得する工夫も必要となります。


新入社員から中堅社員にかけての階層は、現場の実働部隊であり主力部隊と言えます。新入社員時代からさまざまな実務経験を積み、自分が担当したことのある業務に関する知識を深め、徐々に「知識の体系化」を進めていくことで、現場の生産性や課題解決力の向上が期待できます。また、日常業務で発生する問題に対処し、対処内容等のフィードバックを行うことで問題解決能力を養っていく必要もあります。

②中堅社員から管理職への育成

中堅以降の階層に属する従業員は、チームをリードし、成果を上げる能力が求められます。日々のマネジメントの実務を通じて試行錯誤していくとともに、リーダーシップトレーニングやマネジメントスキルの向上を図る研修プログラムを提供することも効果的です。


管理職には、戦略的な視点を持ち、ビジネスの課題に対処する能力が必要です。こうした戦略的思考と問題解決能力を強化するためには、日々生じる現場の課題をタスクに分解し、部下に任せつつ着実に実行する能力を養う必要があります。


また、管理職は組織内外のさまざまなステークホルダーとコミュニケーションを取る機会が増えます。そのため、コミュニケーションスキルや折衝能力を向上させる視点を持つことも大切です。

③管理職から経営層への育成

経営層は企業のビジョンを明確に持ち、戦略を策定する責任があります。そこで、管理職にはビジョンの構築や戦略策定に関する視座を常に持たせ、リーダーシップを発揮する機会を与える必要があります。特に、製造業は外部から経営層を招くことが少なく、現場での実務を経験した人材が昇格することが一般的であるため、「実務者・技術者」から「経営者」へと視座を高めることが不可欠となります。


そのためには、適切なKGIおよびKPI設定のために財務情報を分析するスキルを身につけたり、経営課題を客観的に理解するためのSWOT分析やPEST分析、3C分析といった分析手法を学んだりする必要があるでしょう。また、時代に即したイノベーションや経営の変革を実現するために、市場動向や経済情勢などを読み解く力も求められます。

この20年ほどで、製造業では若年就業者数が減る一方、高齢就業者数が増え、その割合も高まってきました。それに伴い、指導する人材不足や技能継承に関する課題が顕在化しており、貴重な人材をいかに育成し、熟練の従業員から若手へいかに技能を継承するかが問われています。現状では、高齢就業者の雇用延長や退職者の嘱託による再雇用を行うなどして対応している状況ですが、体系的な教育プログラムや技能継承の仕組みを整えることが重要です。


こうした中で人材を確保・育成し、確実に技能を継承するためには、デジタル技術を活用して業務の効率化や生産性向上を図り、ノウハウを可視化するなどの取り組みを進めていく必要があります。例えば、デジタル化を進めることで少ない人員で従来と同じ生産を実現できれば、人手不足の緩和につながります。また、デジタル技術を活用するためにはデジタルに対応した人材の確保・育成が不可欠です。


では、製造業におけるデジタル技術の活用動向や、デジタル人材の育成の動向はどのような状況であり、どういった課題があるのでしょうか。そうした点については下記のホワイトペーパーをご覧ください。

お役立ち

製造業における デジタル技術の活用状況

製造業でデジタル技術が求められる背景としては、少子高齢化による技術伝承者不足や、競争優位性の低下、2025年の壁などがあります。
またSociety5.0が提唱されたことで、IoTやAIを活用した「デジタル化」に注目が集まっています。

本資料では製造業におけるデジタル技術の活用状況と、デジタル技術導入にあたっての課題・解決策について解説します

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