設備保全の法規制対応について
【デジタル化による監査対応の効率化】

近年、製造業をはじめとするさまざまな業界で、法規制や監査の強化が加速しています。しかし、多くの現場では依然として紙やExcelによる記録管理が中心で、属人的・分散的な運用から脱却できていないのが実情です。
もはや、現場の努力だけでは追いつかない状況であり、後ろ向きなコンプライアンス対応から、デジタルを武器にした前向きな規制対応への転換が必要です。本記事では、法規制強化が企業に与えるリスクと、デジタル化による効率的な監査対応の実現方法について解説します。

法規制強化が企業にもたらす3つのリスク

法規制や監査の厳格化が進むなか、紙やExcelに依存した記録管理は、不正や記録不備を見抜けない重大なリスクとなります。品質検査や試験記録をめぐって、長期にわたり不正が見過ごされ、企業経営に深刻な影響を及ぼした事例も報告されています。

①品質管理・記録改ざんリスクの増大

紙帳票やExcelファイルによる記録管理では、改ざんの検知が困難で、品質不正が長期化するリスクが高まります。

実際に起きた事例:三菱製紙エンジニアリング株式会社

概要
2025年に特別調査委員会の報告書が公表された三菱製紙エンジニアリングの事件では、耐熱プレスボード製品において約40年間(1980年頃~2024年1月)にわたる検査データ改ざんが判明しました。1994年から2023年まで製造した件数のうち、実測値及び顧客提出の数値が確認できる合計2,017についての検査関連帳票を照合した結果、1,465件(72.6%)で改ざんが確認されました。

問題点

  • 検査担当者が「ボード検査報告書」に改ざん数値を紙媒体で記載
  • 品質保証部門の担当課長→事業室長の順に紙での承認プロセスを実施
  • 監査証跡が残りにくく、長期間の不正継続を可能にした管理体制

社会的影響
社長らが責任を取って報酬返上、特別調査委員会設置による詳細調査、信頼回復に向けた長期的取り組みが必要となりました。

②事業継続リスク:紙・Excel管理による不正の長期化

記録不備が認定されると設備使用停止命令、是正勧告、刑事罰を招き、生産停止や事業停止に直結します。

実際に起きた事例:三井金属パーライト株式会社

概要
三井金属鉱業の子会社である三井金属パーライトでは、2024年10月の内部通報を契機とした調査の結果、2025年4月4日に公表された報告により、20年以上にわたり品質検査データの改ざん・ねつ造を実施していたことが判明しました。喜多方工場と大阪工場などで、Excelファイルで属人的に品質記録を管理しており、社内調査でマクロによる自動書き換えや手動による数値改ざんが長年行われていたと推定されています。

問題点

  • 規格値外の検査測定値を規格値内の数値に改ざん
  • 検査を実施せずに任意の規格値内数値を報告(ねつ造)
  • ダミーサンプルを利用した検査実施

社会的影響
問題発覚後、親会社を含めたグループ全体の信用は大きく揺らぐこととなりました。

出典元
三井金属パーライト株式会社製パーライト製品に関する不適切な行為および当該行為に関する特別調査委員会による調査結果ならびに当社の今後の取り組みについて

③企業ブランド・信頼失墜リスク:紙管理による不正の長期化

法規制違反が公表されると、市場や取引先からの信頼は一瞬で失われ、企業価値の長期低下を引き起こします。

実際に起きた事例:日医工

概要
2020~2021年に行政処分を受けた日医工の事件では、TMI総合法律事務所の第三者委員会報告書で、「試験記録のシステム・手順上、初回試験の不適合結果を再試験等の適合結果によって上書きすることが物理的に可能であったが故に行われた」と明確に認定されました。

問題点

  • 試験結果が自動的に記録化されないため、不適合結果を勘案せずに最終判断が可能
  • 初回試験記録の物理的上書き・改ざんが技術的に極めて容易
  • 紙ベースの手順書の表現が不明確で、現場担当者による個人的判断に依存

社会的影響
32日間の業務停止命令、医薬品供給への影響、後発医薬品業界全体への信頼低下が発生しました。

出典元
厚生労働省 後発医薬品等の製造管理及び品質管理について(令和3年9月16日)

これらの事例は品質検査や試験記録の問題でしたが、設備保全の分野でも同様の構造的リスクがあります。紙やExcelによる点検・保全記録が不備や改ざんを招けば、監査不適合や設備停止命令につながり、事業継続に直結しかねません。
このような深刻なリスクを回避するためには、電子化推進が不可欠です。

デジタル化は"守り"から"攻め"への転換点

法規制対応に対する企業の取り組み姿勢は、デジタル化によって根本的に変わります。従来の違反を避けるという受動的なアプローチから、企業価値を高めるという能動的なアプローチへの転換が可能になるでしょう。

従来の"守り":最低限の義務をこなす法規制対応

多くの企業では、法規制対応を「違反しないこと」「最低限の基準をクリアすること」を目的とした守りの姿勢で取り組んでいます。この"守りのアプローチ"では、企業にとって負担が大きくなり、ビジネス上のメリットを生み出すことができません。 特に、紙・Excel運用では、以下のような課題が発生しています。


  • 記録作成・管理に多大な工数が必要
  • 監査対応のための資料準備に時間を要する
  • 人的ミスによる記録不備のリスクが常に伴う
  • 属人的な管理により、担当者の負担が集中
  • 改竄の防止、変更の記録管理ができない状態での情報管理

しかし、デジタル化の活用により、これらの課題を解決し、法規制対応を企業の競争力向上につなげることが可能になります。

デジタル化による"攻め":競争優位を築く法規制対応

監査対応の迅速化による信頼性向上

デジタル化により、必要な記録を瞬時に検索・提示できるようになります。これは監査機関からの評価向上につながり、企業の管理体制への信頼を高めます。

規制変更への柔軟な適応力

システム化された記録管理では、新たな規制要件への対応も効率的に行えます。記録フォーマットの変更や追加項目の設定などが、紙運用に比べて格段に容易になります。

属人化からの脱却と組織力強化

デジタル化により標準化された業務プロセスが構築され、特定の担当者に依存しない安定した運用が可能になります。これは組織全体の業務品質向上につながります。

デジタル化によって法規制対応の質を高めることで、企業の信頼性向上や業務効率化といった競争上の優位性を築くことができます。
法規制を負担として後回しにする企業と、法規制をビジネス優位性に転換する企業。その差は、デジタル化への取り組み姿勢によって決まります。

業種別法規制要件と設備保全記録の関係

製造業における設備保全は、業種ごとに異なる法規制要件に対応する必要があります。ここでは主要業種の法規制と設備保全記録の関係を整理します。

製薬業界:GMPへの対応

主要な法規制要件
薬機法に基づくGMP(Good Manufacturing Practice:医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理に関する基準

設備保全記録との関係
製薬業界では、製造設備の稼働状況、保全履歴、環境データが製品品質に直結するため、厳格な記録管理が求められます。特にGMP要件では、設備の適格性評価(DQ/IQ/OQ/PQ)から日常的な保全記録まで、全てが追跡可能(トレーサブル)である必要があります。

【出典元】
医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令|厚生労働省

半導体・電子部品業界:工場運営に関わる主な法規制

主要な法規制要件

  • 労働安全衛生法による設備の定期点検
  • 建築基準法による工場建物(特殊建築物)の維持管理・定期調査義務
  • ISO 14644-1やJIS B 9920等の環境基準への適合(クリーンルームの清浄度・環境パラメータ管理)

設備保全記録との関係
半導体・電子部品工場では、法令や規格に基づく設備・建物・環境の点検・記録保存が義務付けられており、これらの記録の適切な管理・連携が品質保証と法令遵守の両面で不可欠です。

【出典元】
安全衛生情報センター|中央労働災害防止協会
建築基準法 建築基準法第12条(特殊建築物の定期調査・報告義務)|e-GOV ISO 14644-1:2015 概要|ISO公式サイト
日本規格協会(JSA):JIS B 9920-1:2019 概要・構成

化学・石油精製業界:高圧ガス・危険物施設への対応

主要な法規制要件

  • 高圧ガス保安法による高圧ガス設備・記録保存義務
  • 消防法による危険物施設の点検・保安検査

設備保全記録との関係
化学・石油精製業界では、大型プラント設備における圧力容器や配管、危険物タンクなどの安全管理が中心的な課題となります。法定点検や日常点検の結果を正しく記録し、点検者の資格や点検内容、是正措置までを一貫して残すことが、事故防止に直結します。
記録の不備や改ざんがあれば、即時の使用停止命令や是正勧告につながり、事業継続に深刻な影響を及ぼすため、設備保全記録の徹底は不可欠です。

【出典元】
高圧ガス保安法逐条解説 ―その解釈と運用―|経済産業省
危険物施設の保安検査及び定期点検の制度概要|総務省消防庁

輸送機器・重工業界:大型設備の安全管理

主要な法規制要件

  • 労働安全衛生法によるクレーン等の定期点検
  • 労働安全衛生法による建設機械の定期自主検査
  • 高圧ガス保安法による高圧ガス設備・圧力容器の定期検査・記録保存義務(該当設備を有する場合)

設備保全記録との関係
大型設備や危険を伴う機械では、法定点検記録と日常点検記録の適切な管理が事故防止に直結します。点検者の資格、点検内容、是正措置の記録が法的要件となります。

【出典元】
クレーン等安全規則 第38条|e-GOV
労働安全衛生法 第45条|e-GOV
高圧ガス保安法 第35条の2|e-GOV

産業機械・精密機器業界:品質保証と校正管理

主要な法規制要件

  • 労働安全衛生法による機械設備の定期点検
  • 計量法による計測器の校正・検定
  • ISO 9001品質マネジメントシステム(任意だが業界標準)

設備保全記録との関係
精密機器製造では、測定精度と品質保証が重要なため、製造設備・計測器の校正記録、保全履歴の管理が不可欠です。特に計量法に基づく計測器の定期校正記録は、製品の精度保証と法的要件の両面で重要な記録となります。

【出典元】
労働安全衛生法 第45条|e-GOV
計量法 第19条(特定計量器の定期検査)|e-GOV
ISO9001品質マネジメントシステム|日本規格協会(JSA)公式サイト

食品・飲料業界:HACCP・食品衛生法への対応

主要な法規制要件

  • 食品衛生法に基づくHACCP
  • 労働安全衛生法による設備の安全管理
  • 建築基準法による工場施設の維持管理

設備保全記録との関係
食品製造設備では、衛生管理と設備保全が密接に関連します。洗浄・殺菌記録、温度管理記録、設備稼働記録が食品安全確保の根拠となります。

【出典元】
HACCP(ハサップ)|厚生労働省
食品産業の安全な職場づくりハンドブック|農林水産省
建築基準法第8条(建築物の維持保全)|e-GOV

デジタル基盤による監査対応の高度化

デジタル基盤は、単に記録を早く探せることにとどまらず、監査証跡の自動生成やIoTによるデータ精度の確保といった、人手では不可能な高度な監査対応を実現します。これにより、企業は監査官からの要求に迅速かつ客観的に対応でき、管理体制への信頼を高めることができます。

記録の一元管理とPDCA基盤の構築

設備保全における法規制対応には、作業実績の正確な記録、改ざん防止の仕組み、そして誰が・いつ・何を行ったかの証跡管理が不可欠です。電子化によってこれらを仕組み化することで、PDCAのサイクルを確実に回し、法規制要件を満たしながら継続的な改善を実現できます。
この基盤が整うことで、監査対応における属人的なボトルネック、例えば記録探索の手間や対応遅れといった課題が解消されます。さらに蓄積されたデータを活用し、コンプライアンス対応の強化だけでなくビジネス価値創造へと発展していきます。
つまり電子化は単なる副産物ではなく、データ管理・分析によって経営の舵取りを変革するための本質的な取り組みとなります。

統合データベースによる情報集約と可視化

設備台帳・点検記録・保全履歴を統合的に管理することで、必要な情報を瞬時に検索・出力でき、現場・管理部門・経営が同じ基盤を参照できる環境が整います。特にダッシュボード機能を活用すれば、重要な指標や期限が迫る点検項目を一目で把握でき、監査準備だけでなく日常的なリスク管理や経営判断にも直結します。

自動化とAI活用によるコンプライアンス強化

IoTやセンサーを活用した自動収集により、手作業の記録ミスや改ざんリスクを排除し、正確で信頼性の高いデータ管理を実現します。システムが自動生成する監査証跡は、操作履歴やタイムスタンプを含めた完全な記録として残り、監査対応の負担を軽減します。さらに、電子署名と組み合わせることで、記録の法的有効性を確保し、監査や訴訟におけるリスクを大幅に低減できます。
さらに、AIによる異常や逸脱の予兆検知を組み合わせることで、従来の事後対応から予防的な管理へと進化します。電子署名とタイムスタンプにより記録の法的有効性も担保され、監査や訴訟におけるリスクを最小化することが可能になります。

ビジネス価値創造への発展

電子化によって構築された高品質データは、設備の最適運用、予防保全の高度化といった新たなビジネス価値を生み出します。
法規制対応のために整備された基盤を活用することで、企業は単なるコンプライアンス対応を超え、経営にプラスをもたらす戦略的な取り組みへと発展させることができます。

デジタル化で実現する持続可能な法規制対応

設備保全の法規制対応における課題は、デジタル化によって根本的に解決できます。従来の分散した記録管理から統合管理システムへ、手作業による人的ミスから自動データ収集へ、事後対応型から予防的な管理へ。このような変化により、法規制遵守は負担からビジネス価値を生み出す活動へと変貌します。
あらゆる業界においても、複雑化する法規制要件に対応するためには、従来の手法から脱却し、デジタル技術を活用した効率的で確実な管理体制の構築が重要でしょう。

ただ、「自社に最適なデジタル化の進め方が分からない」「導入の進め方に迷っている」といった声も多く聞かれます。
エクサは、そうしたお悩みに寄り添い、これまで数多くの現場で課題解決をお手伝いしてきました。現場で培った経験と技術を活かし、貴社の状況に合った解決策をご提案します。 設備保全領域でのお困りごとがあれば、まずはお気軽にご相談ください。

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