遠隔支援とは?現場の効率化に向けたシステム導入のメリットや方法

遠隔地同士でもインターネットを通じて音声や映像を送受信できる「遠隔支援」は、従業員の負担軽減や移動コスト削減などのメリットを目的に、さまざまな業種・業態で導入が進められています。本記事では、遠隔支援の活用シーンや現場の効率化に向けたシステム導入のメリット、具体的な導入の方法について解説します。

遠隔支援とは?

遠隔支援とは、パソコンなどの端末とWeb会議システムとを組みあわせて現場作業を支援することです。大きなメリットのひとつは、遠方にいながら現場の従業員と連絡を取り、リアルタイムで状況を確認しつつ的確に指示を出せることです。映像によってコミュニケーションするため、電話や音声通話では説明しづらい箇所や内容も、細かく伝えられます。

特に遠隔支援システムは、新入社員や若手社員、部署に異動してきたばかりの人など、経験がまだ浅い従業員に対して高い効果を発揮します。例えばそうした従業員が、疑問を抱いたりトラブルにあったりした時も、リーダーなどに指示を仰ぎやすくなります。支援を受けやすい状況にいれば、慣れない現場でもストレスがたまりにくくなるでしょう。

近年では、リモートワークの推進が進んでいることもあり、Web会議システムを導入している企業は少なくありません。Web会議システムを活用し遠隔支援体制を整えることで、人材不足や属人化の解消、業務効率化を目指せます。加えて、トラブルに素早く対応可能な環境なども整備しやすくなります。


遠隔支援が求められる背景

日本は少子化の傾向が続いており、特に製造業などものづくりの現場では、慢性的な人手不足が深刻な課題です。

製造業では特に、従業員たちの高度な技術力や経験などが事業展開に不可欠です。しかし今日では、若手不足などの要因で技術継承がままならず、高齢就業者からの世代交代が困難になりつつあります。若手を育てる手間・時間を補える現場環境をうまく整備できない業者も少なくありません。
こうした状況で育成を敢行しても、通常業務の遂行が滞ってしまったり、育成効率が上がらなかったりするでしょう。その結果、若手・育成者がともに大きなストレスを抱えてしまう恐れもあります。

したがって育成環境の整備は、製造業界にとって喫緊の課題と考えられています。この課題解決も大きな目的としつつ、現場支援を効率化する方法を各社が積極的に検討・実施し始めています。そうした方法で代表的なもののひとつが、「Web会議システム導入などによって、遠隔支援体制を構築すること」です。

参照:「2022年版ものづくり白書」(概要)3.人材確保・育成 (p16)
https://www.meti.go.jp/report/whitepaper/mono/2022/pdf/gaiyo.pdf

遠隔支援の活用シーン

現在、遠隔支援はあらゆる業界で積極的に活用されています。一例としては、建設、鉄鋼、流通、警備、製造、自治体、製造業、医療、農業などが挙げられるでしょう。

例えば、建設現場で働く従業員とWeb会議システムで接続し、作業中の手元を映してもらえば、問題点を素早く正確に把握した上で指示が可能です。「スーパーマーケットの店内に防犯カメラを設置し、警備会社がリアルタイムで防犯監視する」といった遠隔支援サービスもあります。

遠隔支援は多種多様な活用方法があるため、他社の事例も参考にしながら現場でアイデアを出しあうのもおすすめです。自社にとってベストの運用方法を見つけられる可能性が高まります。

遠隔支援に必要なツール

遠隔支援に必要なツールは、Web会議システムやウェアラブル端末、ウェアラブルカメラ、スマートグラスなどです。ここでは、それぞれのツールの特徴について詳しく解説します。

Web会議システム

Web会議システムとは、遠隔地同士にいるユーザー同士が、インターネットを通じて映像で通話できるシステムです。中にはチャットツールやファイル共有、共同編集機能などが備わっているものもあります。これら機能は、テレワークなどの、遠隔地同士で行う業務を効率化するために有効です。

Web会議システムには、クラウド型とオンプレミス型の2種類があります。
クラウド型のWeb会議システムは、事業者からインターネット経由で提供されます。システム用のサーバーは一般に、サービスを提供する事業者側が保有・管理しています。そのため、利用者側はサーバーなどをメンテナンスする必要がなく、インターネットを利用できる環境であればどこからでも接続できる点が大きなメリットです。

一方のオンプレミス型は、自社内で保守・運用しているサーバーにWeb会議システムを導入する方法です。システムの保守も自社で行います。継続的なメンテナンスが必要になるものの、高いカスタマイズ性がメリットと考えられます。

ウェアラブル端末

ウェアラブル端末とは、腕や頭など、身体に装着する端末のことです。小型のコンピューターを搭載しており、さまざまな役割を果たせます。例えば手首に装着する「スマートウォッチ」や、メガネのような形をした「スマートグラス」は、ウェアラブル端末の代表例でしょう。

ウェアラブル端末の中には、CPUやメモリなどが搭載されており、運動データの記録や解析を単体で行えるものもあります。他にも、睡眠の質を自動的に検知して、アドバイスを表示するウェアラブル端末なども代表例です。加えて、現実には存在しない景色を目の前に映し出し、仮想空間を体験できるVR装置も、ウェアラブル端末の一種です。

ウェアラブルカメラ

ウェアラブルカメラとは、身体に装着して撮影が可能なカメラのことです。頭部や胸部、腕など、身体のあらゆる部分に装着することで、さまざまな目線からの映像を映し出せます。

ウェアラブルカメラには映像の送受信機能が備わっているものも多くあります。これを用いることで現場担当者と指示担当者が別々の場所にいても、リアルタイムな映像を通してコミュニケーション可能です。指示担当者は、音声や映像を通じて現場の情報を正確に把握し、作業内容を詳細に指示できます。

装着部位によって映像の目線が異なるため、使用方法はさまざまです。例えばクレーン車に乗った建設現場の担当者が、頭にウェアラブルカメラを装着することで、指示担当者は作業者目線で指示を出せます。

スマートグラス

スマートグラスとは、メガネやゴーグルのような形状をしたウェアラブル端末の一種です。メガネと同じように装着することで、仮想的な情報を追加し、現実の風景と重ねて見られるのが特徴です。スマートグラス自体がディスプレイの役割を担っており、拡張現実を意味する「AR」と掛けあわせて、「ARメガネ」とも呼ばれることもあります。

スマートグラスのメリットは、両手の自由を確保することでスムーズに作業できる点にあります。例えば物流現場において、情報確認のたびに両手がふさがっていては、ピッキングなどの作業を行いづらく不便でしょう。スマートグラスを装着すれば、作業の手順や荷物の格納情報などを、眼前のディスプレイに表示させられます。さまざまな作業において、業務効率化を図れるようになるでしょう。

また、スマートグラスの中にはカメラ機能が搭載されているものもあり、製造現場の設備点検や検査などにも広く導入されています。

今後は、現実に存在しない映像を映し出す「VR(仮想現実)」や、3DCGを現実世界と重ねて表示させる「MR(複合現実)」の活用も進んでいくと考えられます。

遠隔支援導入のメリット

遠隔支援を導入すると、現場作業の効率化や生産性の向上、トラブル防止など、さまざまなメリットがあります。ここでは、主な5つのメリットについて紹介します。

作業の効率化・生産性の向上につながる

まず、作業を効率化することで生産性向上に期待できる点です。
インターネットを利用できる場所であればどこでも、Web会議システムとパソコンやスマートフォンなどの端末を使ってリアルタイムにコミュニケーションができます。そのため、遠方からでも現場の状況を正確に把握し、スムーズに指示を出せる点がメリットです。

現場判断をスピードアップし、業務を速やかに遂行できるだけでなく、指示者が現場へ移動するための時間や労力も削減できます。交通費や出張費を負担する必要がなくなり、コスト削減にも貢献します。

ミスや問題発生の予防ができる

遠隔支援によって、現場担当者と指示担当者がリアルタイムにコミュニケーションを図れるようになることで、ミスや問題発生を予防できる点もメリットのひとつです。

例えば、指示担当者に疑問点などをうまく伝えられないまま、現場担当者が独断で作業してしまうケースを想定してみましょう。この場合、指示担当者と現場担当者との認識が食い違っているとミスが発生しやすくなります。そして些細なミスから生じた問題を解決するために、多大な労力を要する恐れすらあります。

指示担当者と現場担当者とが適切なコミュニケーションを取りながら作業を進められるよう、遠隔支援体制を整備しておけば、上記のような作業ミスを防止できます。特に、音声だけでなく映像を確認しながら作業を進められる点は、遠隔支援の強みです。言葉だけでは説明が難しい問題も、映像を確認することでスムーズな解決につなげられます。

進捗管理ができる

遠隔地からでも作業状況をこまめに確認できるようになり、正確な進捗管理を行えるのもメリットです。

通常、指示担当者が現場の状況を確認できない体制下では、現場担当者からの報告が進捗管理の重要な材料になります。しかし、個々の現場担当者が正確に報告しているどうかを判断する手段は多くなく、作業品質の判断も主観的になりがちです。

遠隔支援なら、指示担当者が映像を通じて自ら現場の状況を確認できるため、精度の高い進捗管理が可能になるでしょう。

技術の継承や教育・研修へ活用できる

遠隔支援の活用方法は、現場の状況確認や指示出しだけではありません。ウェアラブル端末により熟練者の目線から作業映像を記録し、若手や新人社員と共有することで、技術の継承や教育・研修へ活かせることも魅力です。

経験豊富な従業員の技術は、企業にとって貴重な財産と考えられます。しかし、経験に頼る側面が大きいために技術を正確に継承できず、後進がなかなか育たない問題を抱えている現場も少なくありません。

熟練した技術を映像に残したり、リアルタイムに同じ目線で学んだりできる環境を整えることで、安定的に技術を継承できます。

データの記録・活用につながる

リアルタイムに作業を監視すること以外にも、「作業中の映像を記録しておき、作業後に記録した映像を分析する」という使い方も有用です。

作業時の映像を振り返ることによって、現場担当者が自身の作業を振り返って改善点を見つけたり、指示担当者が現場の映像を俯瞰して、より良い運用方法に変更したりするきっかけになります。また、トラブル発生時の状況を映像に残しておけば、トラブル対応の教材などとしても活用可能です。

遠隔支援導入のポイント

遠隔支援を導入する際は、セキュリティの確保や運用体制の整備など、いくつか押さえるべきポイントがあります。ここでは、特に注意したい3ポイントについて解説します。

セキュリティ対策を行う

遠隔支援では、インターネットを利用して映像や音声をやり取りします。そのため、自社のネットワークに第三者が侵入すると、業務上の機密を不正に盗み見られたり、個人情報が流出したりするリスクがあります。

遠隔支援を導入するのであれば、セキュリティ対策の重要性を現場の全員が認識し、安全性の高い運用を維持することが重要です。

具体的には、Web会議システムなど、システム面のセキュリティ設定などが挙げられます。また、研修などを通じて現場担当者にセキュリティ対策の意義や目的について説明し、意識付けする対策も有効です。

運用体制・通信環境の整備

遠隔支援の導入時は、運用体制や通信環境の整備も求められます。事前に運用ルールを詳細に取り決めて現場に周知し、ルールから逸脱した運用を行わないように徹底しましょう。

管理者側で運用ルールを明確に整備せず現場任せにすると、各担当者が別々の運用手順を組んでしまう恐れがあります。結果、現場の業務効率がかえって低下したり、セキュリティレベルが下がり安全性が損なわれたりするリスクにつながります。

遠隔支援の人員を十分に確保しておき、知識やスキルにあわせて適切な部門に配置しましょう。ネットワークが整備されていないと、通信中に音声や映像が途切れてしまうことも考えられるため、通信の品質を高めることも大切です。

目的に合ったツールを選定・導入する

遠隔支援の目的は、企業の業種・業態や、利用シーンによってさまざまです。利用目的によって導入すべきツールも異なります。自社が遠隔支援を導入するのはなぜなのか、といった目的を明確にして、必要な機能が搭載されたツールを選定しましょう。

万一、自社にとって必要な機能が備わっていないツールを導入してしまうと、現場でほとんど使われないまま放置されたり、すぐに解約しなければならなくなったりするかも知れません。とはいえ、他のツールに乗り換えるとさらにコストがかかるため、最初の選定時に自社にとってベストなツールを選ぶことが重要です。


遠隔支援導入の方法・流れ

遠隔支援を導入するためには、次のステップに沿って導入準備を進めましょう。

導入の目的を明確にする

まずは、「何のために遠隔支援を導入するのか」を洗い出して、目的を明確にする必要があります。導入する現場や、遠隔支援の具体的な内容を精査することで、どのような運用体制を構築しなければならないのかを明確化します。

目的が曖昧なまま導入を進めてしまうと、遠隔支援に適した人材を配置できなかったり、機能が不足したツールを選定してしまったりするため、注意が必要です。

製品を選定する

導入目的が明らかになったら、目的に合った製品を選定しましょう。

近年は、さまざまな機能を持った遠隔支援ツールが販売されています。機能が多すぎればコスト増を招く一方で、少なすぎれば目的を達成できないため、コストと機能のバランスが取れた製品を選びましょう。
運用方法に加えて、既存業務システムとの親和性を考慮し、適切な端末やツールを選ぶことも大切です。

試用期間を設ける

本格的な導入前に、運用ルールやツールの機能に抜け漏れがないかどうかを確認するには、試用期間を設けるのがおすすめです。特定の部門など、小規模な組織で遠隔支援を運用してみて、現場の声も取り入れながら問題がないかどうか検証を重ねましょう。

試用の段階でPDCAサイクルを回し、運用の改善点を見つけて反映する方法も効果的です。十分に試用し改善しておけば、本番運用を開始した後に大規模なトラブルが起こりにくくなります。

運用・改善する

本番運用を開始した後は、現場担当者や指示担当者の意見を取り入れながら、定期的に運用ルールなどを改善しましょう。そうすることでより洗練された運用が可能になり、業務効率化や生産性の向上につながります。
また、現場と運用の成果について共有することで、遠隔支援を継続するモチベーションアップの効果も期待できます。

遠隔支援ツールの事例:Maximo Assist

ここでは、AI/AR技術を効果的に活用することで従業員それぞれに最適な遠隔支援を提供する「Maximo Assist」を紹介します。IBM社では、設備管理・作業現場のDXを実現する、統合資産管理ソリューションのプラットフォーム「IBM Maximo」を展開しています。そこに含まれるMaximo Assistは、現場で作業する従業員のためにAI/AR支援を実施するツールです。

Maximo Assistの主要な機能のひとつは、高スキルを持つ専門家たちによる遠隔診断・遠隔支援です。この遠隔支援ではAR技術も活用し、より的確でわかりやすい診断やアドバイスを提供しています。
また支援中は、専門家と現場従業員との通話ログが記録・蓄積されています。支援AIは、この蓄積データをソースとして活用し、より適切に従業員をアシストしてくれます。
加えて多くの過去データを基にした症状検索機能も、Maximo Assistの強みです。従業員が特定の症状を入力して検索をかけると、その症状の原因となっている可能性の高い事柄や、対策手段を関連度順に表示してくれます。

専門家・AIのサポートや症状検索機能によって、従業員たちは自分の置かれた状況によりフィットする支援を受けられます。経験の浅い従業員でもこれらを活用すれば、仕事をスムーズかつ正確にこなせるようになっていきます。
またこの遠隔支援体制の導入で、従業員は自分自身で成長しやすくなるため、現場での教育者側の負担を低減させることにもつながります。よりくわしい内容についてお知りになりたい方は、ぜひ以下のサイトもご覧ください。

設備保全のDX化なら、IBM Maximo Application Suiteがおすすめ

まとめ

近年では、業種・業態を問わず、多くの現場で遠隔支援の活用が注目されています。
Maximo Assistでは、保全担当者が現場の保全業務をサポートする「AR遠隔支援サービス」を提供しています。高いスキルを持った技術者による、保全業務の遠隔支援サービスをご希望の際は、お気軽にお問いあわせください。

連載コラム AI・IoTによる未来の保全

本コラムでは、近年、盛んに導入されているデジタル化や欧米で盛んに取り組まれている第四次産業革命のコアとなっている設備保全手法も含め、次世代の保全のあり方について議論します。

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