連載コラム AI・IoTによる未来の保全

第7回
ニューノーマルのデジタル経営環境
に向けたDXの推進(1/2)

新型コロナウィルスの流行でビジネス環境は大きく変わりました。流行の終息には3年以上かかり、10年後でもビジネス環境は元に戻らず、「ニューノーマル」な経営環境になると言われています。国内はもとよりグローバルの企業経営者はDX推進を強力に推進することで経営環境の変化に対応しようとしています。しかしながら経営効果を発揮するDXの実行は難易度が高く、従来のDX施策は70%が失敗しています。第7回は、新型コロナウィルスの流行の前後のDX実施状況をご紹介し、今後のDX推進の構想や計画策定に考慮するべきDX推進の成功、失敗原因を整理します。

1.新型コロナウィルス流行による産業、経済への影響

収束が見えない新型コロナウィルス

2020年12月現在、新型コロナウィルスの感染拡大が続いています。ワクチンがある程度普及すると思われる2021年後半には経済活動が正常に戻る可能性がありますが、ウィルスの突然変異による毒性や感染力の変化がワクチンの有効性にも影響するとされており、流行の収束について条件付きシナリオが議論されています<1><2>。ウィルスには未知の部分が多く不確実性が高いことから、多くの識者の感触では、収束に概ね3年から5年かかると予想されています。<3>

製造業への影響

新型コロナウィルス流行の伝播とともに、経済や産業活動が各所で停滞しています。各国市場では販売の低迷とともに、供給側の問題も明らかになってきました。2020年3月頃には中国、アジアで製造する自動車、電子機器、電子部品工場の生産停止によるサプライチェーンの寸断が発生し、日本国内でも生産停滞が起き、特に世界の工場と言われる中国に製造能力を集中させ、かつ単一サプライヤに依存していたケースでは影響が大きく出ました。この反省から、製造拠点の国内回帰や東南アジアなどへの移転など、製造拠点を分散させる動きが始まっています。
日本国内の工場やプラントでは特定の熟練従業員に依存した工程や設備運用があり、従来から、熟練者の高齢化による生産停止・生産量減少のリスクや、生産に関わるナレッジ喪失のリスクが存在しています<4>。熟練者がウィルスに感染して長期間勤務できなくなると、その熟練者に依存する生産が停止するなどの影響が出るため、このリスクは直近の問題になっています。海外工場で日本から派遣した熟練従業員が現地社員に指導しているケースでも、現地従業員を含めたウィルス感染や渡航自粛などの影響で、熟練従業員を工程の現場に配置できず生産工程が停止する問題があり、これも特定の人のスキルや知識に依存する生産体制と根は同じ問題です。
海外からの部品調達、自社工場内での多数の製造工程、複数の協力会社での生産協力といったバリューチェーンのどの部分で、停止、遅延が発生しているか、各工程の状態が見えないといった問題も発生しました。
また工場の従業員が作業中にウィルスに感染するケースもありました。特に倉庫、物流では、状況対応型の作業のため、特定の場所で人が密集する時に感染の危険性が高まることがわかりました。
一方、間接部門では、2020年3月に日本政府からテレワークによる在宅勤務が要請されましたが、3月中にテレワークを実施した企業は26%にとどまりました<5>。この原因として、仕事の管理、IT環境・セキュリティ上の問題が挙げられ、背景に紙の文化・デジタル化の遅れとともに、対面での仕事のスタイルを変えられない点が指摘されました。<6>
新型コロナウィルス流行の日本の製造業への影響(図1)は、デジタル化・IT化の未整備、遅れに起因することが多いと言われています。2015年頃から官民あげてデジタルトランスフォーメーション(DX:デジタル化による改革)の必要性が叫ばれ、それぞれで取り組んで来たはずでしたが、今回のウィルス流行に当たって、官民とともにDXの取組みが遅れていたことが明確になりました。官の方では、政府はこの遅れを挽回しようと、菅内閣がデジタル庁創設を掲げています。企業の状況について、次の章で検討します。

図1.新型コロナウィルス流行による産業への影響と問題点 (出所<7>)

図1.新型コロナウィルス流行による産業への影響と問題点 (出所<7>)

2.デジタルトランスフォーメーション(DX)の実施状況

2015年頃から始まったデジタルトランスフォーメーション(DX)

2010年代に入り、ビッグデータ・アナリティクス、クラウド・IoT、AIなど、スマート技術が普及し、これらを活用した第4次生産革命が始まりました。2014年米国GEなどによる標準化団体インダストリアル・インターネットが活動を開始、2015年ドイツ政府、民間企業が「インダストリー 4.0 実現戦略」を発表し、実証実験を開始しました。これを追って、国家戦略として中国、日本など各国が国家戦略として独自の第4次生産革命の戦略、計画を発表し、デジタルトランスフォーメーション(DX)が始まりました。
DXにおけるデータ活用の段階(図2(a))は、総務省<8>によると5つの段階があり、①プロセスや設備にセンサーを設置し、IoTによりデータを収集・蓄積する段階、②収集したデータを一次加工し、ダッシュボードなどで可視化する段階、③データをアナリティクスにより予測する段階、④予測した結果をプロセスや業務に反映し、効率化を図る段階、⑤ビジネスモデルを改革し、新規サービスや商品を生み出す段階になります。
③で適用されるアナリティクスは、システム開発のプロセスとは異なり、データ分析の反復的な作業<10>を行いますが、それでも確実に狙い通りの結果を実現できるか明確ではありません。最初に必要なデータが揃っていない場合や、設定した仮説が実際には違っていた場合など様々な要因があります。そこで、実際に狙いが実現できるかを検証するPoC(Proof of Concept:概念実証)を含むトライアルプロジェクト(試行実験)を実施することになります。③で良好な結果を得た場合、④ではアナリティクス、機械学習、AIなどの技術を適用して業務を効率化しますが、④、⑤では、投資対効果に十分見合う効率化、付加価値化が求められます。
日本でも2015年頃から大企業を中心にデジタル化に取組み、2016年通信白書ではデータ活用の①データ収集・蓄積を実施している企業が51%、②データ分析による現状把握(可視化)を実施している企業が43%と報告され、DXは順調に進展していると見られていました(図2(b))。

図2 データ活用段階とデータ利用状況(2016年)(出所<8>)

図2 データ活用段階とデータ利用状況(2016年)(出所<8>)

日本を含む世界の企業で停滞するDXの取組み

ところが近年、DX関連プロジェクト停滞の記事が見られるようになり、ものづくり白書<9>(図3)でも、生産プロセスに関する設備の稼働状況等のデータ収集、ライン・製造工程全般の機械や人員の稼働状態の「見える化」、データ化・見える化や検査工程の自動化・IT化、複数部門間での情報・データ共有、販売後の製品の動向や顧客の声を設計開発や生産改善への活用において、2017年頃から進展がないか、むしろ減退していると報告しています。
企業のDXプロジェクト状況については、清水<11>によると、成熟したデジタルプランを有するデジタル導入企業は、リーダー企業を含め8~9%であり、40~50%の企業はDXプロジェクトの評価段階に入っているが、着手から5年経過した現在でもPoC(概念検証)実施中の企業が多く、3分の2は本格的な活用に至っていないとしています。また、PoCが計画より長引き、効果を説明できないまま人材確保が認められなかったケースを紹介しています。

図3 製造現場で停滞するDX (出所<9>)

図3 製造現場で停滞するDX (出所<9>)

海外のDXの状況も日本と同様の状況にあります。Capgemini社の2017年の調査<12>によると製造業の76%は、進行中または策定に取り組んでいるスマートファクトリー・イニシアチブがありますが、成功レベルに到達した企業はわずか14%となっています。この中でも特に高度なレベルに達した「デジタルマスター」は、製造業のわずか6%としています。McKinsey社が国際経済フォーラムとともに実施した「Global Lighthouse Network」<12>では、グローバル各業界の1000社から2019年にデジタル先進企業(ここではLighthouse)を44社選定していますが、一方、70%の製造企業はパイロット(実験)プロジェクトに留まっているとしています。McKinsey社はこれとは別に2018年グローバル製造企業の調査をもとに、業界別に企業がパイロットのフェーズで留まっている率を提示していますが、全体では平均66%。次の展開に進捗した割合は25%としています<14>。
以上のように、DXの取組みは、日本のみならず世界でも、パイロットプロジェクトから本番導入に至るのは全体で2割程度であり、DXに期待する目標の実現が難しい状況になっていると言えます。

3.従来のDXの失敗原因と成功の要件

従来の多くのDXプロジェクトでは、パイロットプロジェクトが初期の目標を達成できず、本格導入するための投資対効果に見合わないと判断され、本格導入に至っていません。この原因について多数の機関が大規模なアンケート調査やケーススタディを実施し、DX成功企業と失敗企業を比較分析し、特徴を抽出しています。国内では、経済産業省が国内企業のDX取り組みの現状と国内固有の条件を踏まえ、DX推進ガイドラインでDXが成功するための要件を発表しています。これらの要件を収集し、成功企業、失敗企業の特徴として表1に整理しました。
国内外でDXと呼称されるプロジェクトは、個別部署から事業部門全体、企業全体など、対象領域が大小様々であり、またその内容もテクノロジーをプロセスに適用したケースや単純なデジタル化のケースなど様々であることから、各資料では最初にDXの定義を確認することが多くなっています。たとえば、経済産業省<17>では、DX(デジタルトランスフォーメーション)を「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。」としています。さらにDXでも「ITの活用による企業の製品・サービス開発強化やビジネスモデル変革を通じて新たな価値の創出やそれを通じた競争力の強化を目指す」ことを「攻めのIT」、「社内の業務効率化・コスト削減を中心と」することを「守りのIT」としており、日米比較では日本は「守りのIT」に偏っており、「攻めのIT」が少ない点から、投資配分先の偏りを問題視しています<23>。これらの定義を念頭に参考資料<15>~<22>からDX成功企業、失敗企業の特徴(表1)を見ていきます。

表1 DX成功企業、失敗企業の特徴 (<15>~<22>より作成)

成功企業の特徴失敗企業の特徴参考文献
DX施策の要件
  • 部門、企業の枠を超えた変革を実行している。
  • ビジネスモデルの変革が、経営方針転換やグローバル展開等への迅速な対応を可能とするものになっている。
  • 個別部門を対象とし、既存業務を変えないまま、デジタル化を実施している。
  • ビジネスモデルの変革の抵抗が大きく、迅速な対応が難しい。
<15><16><17>
ロードマップ
  • スマートテクノロジーの開発ではなく、最初に創出する機会と価値を見極めて、実現方法を展開する。
  • 段階的なロードマップと広範囲のビジネスケースを開発する方法について、明確なビジョンと変化のストーリーを確立している。
  • バリューチェーンの関係会社が参加するエコシステムを構築して主導する。
  • スマートテクノロジーの開発がどのような機会と価値を創出するか見極めていない。
  • 段階的なロードマップを持たず、単発のプロジェクトで、小規模のビジネスケースを開発するに留まっている。
  • 自社のみの参加型システムに留まっている。
<18><22>
戦略策定
  • 戦略目的を達成するためにデジタルテクノロジーを使用する。デジタル戦略のビジネス戦略への統合に反映されている。
  • 経営戦略やビジョンの実現と紐づけられた形で、経営層が各事業部門に対して、データ収集・活用、デジタル技術を導入し、新たなビジネスモデルを構築する取組について、新しい挑戦を促し、かつ挑戦を継続できる環境を整えている。
  • 特定のビジネス目標をサポートするため、またはIT運用戦略の一部としてデジタルイニシアチブを実装しているが、ビジネス戦略の重点ではない。
  • 戦略なき技術起点のPoCが失敗している。
  • 経営者が明確なビジョンがなく、部下に丸投げして考えさせている(「AIを使って何かやれ」)。
  • 仮説検証型のアプローチは失敗を恐れて実行できない。
<18><22>
組織・役割
  • 経営トップがビジネス変革を推進し、広く調整して実装をしている。
  • 新規デジタル技術活用やITシステム刷新においては、経営トップ自らがそのプロジェクトに強いコミットメントを持って取り組んでいる。
  • 各事業部門がオーナーシップを持ってDXで実現したい事業企画・業務企画を自ら明確にしている。
  • CEOの関与と後援の欠如しており、目標に関するトップマネージャー間で意見の不一致がみられる。
  • イニシアチブが(CMOやCDOではなく)ITによって所有または主導されているという認識
  • IT担当者が事業部門と十分連携していないIT実装作業として扱っている。
<17><18>
評価・意思決定の仕組み
  • 新しいレベルの競争上の優位性を求めているため、リスクテイクが文化的規範になりつつある。
  • DX戦略の成功を測定するために新しいKPIを導入し、段階的にPDCAを回している。
  • ビジネスへの効果、コストなど複数の指標から定量、定性評価をして判断している。
  • イニシアチブの全体的な複雑さとその成功条件の不確実性に対する恐れでネガティブな評価をする。
  • 目先のコストに注目しており、将来のビジネス効果やその効果を出すためのアクションの検討をしていない。
<17><19><21>

① DX施策の要件

DX施策が投資対効果に見合う成果を上げるためには、「攻めのIT」では新規製品やサービスの創出ではバリューチェーンに関わる協力企業との連携が不可欠です。また「守りのIT」でも業務効率化・コスト削減の効果はできるだけ広範囲を対象にする必要があります。従って、DX施策では、部門、企業の枠を超えた変革を実行する必要があります。失敗ケースでは小規模の個別部署を対象とした業務にスマートテクノロジーを適用するもので、対象スケールが小さいため効果が小さく、加えて既存業務を変えないままデジタル化した場合は効果は限定的になります。

② ロードマップ

「攻めのIT」では新商品・サービス提供による価値、「守りのIT」では業務効率化・コスト削減効果の価値を創出しますが、これを実現するためには、最初にその価値を創出する機会(いつ、どこで、どのような条件)を見極めてから、実現します。実施方法も効果を検証しながら小さい範囲から広範囲へ展開するなど、段階的なアプローチとロードマップを策定しておく必要があります。失敗ケースでは、DX施策が創出する価値を見極めずにスマートテクノロジーの開発に着手したり、プロジェクトの次の展開構想やロードマップがなく、単発で終了するケースが挙げられます。

③ 戦略策定

最初にその価値を創出する機会を見極めるためには、DX戦略を策定する必要がありますが、DX戦略はビジネス戦略やビジョンで示される戦略目標をもとに策定します。たとえば、新規製品・サービスの開発では、DX戦略と同時に提供する製品・サービスそのものの開発や、これらを提供する組織体制や経営リソースの配置も実施する必要があります。従ってDX戦略は、ビジネス戦略を実施するためのいくつかの戦略の一つになります。失敗ケースでは、DX施策は、IT運用戦略として位置づけられており、ビジネス戦略の重要なコアになっていない。あるいはDX戦略がなく、技術起点のパイロットやPoCを実施しているケースが挙げられます。

④ 組織・役割

DX施策は実施すれば即座に効果が出るほど容易ではありません。開発中や運用による効果が出るまで、コストだけかかる期間を経ねばなりません。また既存業務を変える業務改革やビジネスモデル変革では変化への抵抗が大きい現場の協力が必要であり、ビジネス戦略のDX以外の戦略と同期がとれた実行など、組織を超えた調整や運用が求められます。このため、規模が大きいDX戦略になるほど、経営トップによる推進や各事業部門のオーナーシップが欠かせません。

⑤ 評価・意思決定の仕組み

広範囲の事業や業務領域にわたるDXプロジェクトは、従来のシステム構築に加え、未経験のテクノロジーの適用など、リスクが異なる大小のタスクから構成されます。リスクが大きいタスクは予定の期間、費用では完了しない可能性があるため、常に達成状況を把握し、リスクテイクした評価・意思決定が必要になります。IDC<21>によると、DX実施企業の62%が、DX戦略の効果を測定するKPIを導入しており、成功企業では試行・開発・運用など段階的なフェーズを設けてKPIを可視化し、そのタスクが影響を及ぼす直接、間接の業績評価とともに定量、定性評価を実施しています。失敗ケースでは、これら評価の仕組みがないため、経営側が意思決定する判断材料を提示できず、目先のコスト増だけで失敗と判断されます。

これら5つの分野以外にDXの成功、失敗を左右する要素として「企業のデジタル成熟度」があります。デジタル成熟度は、戦略、組織・制度、リーダーシップ、価値基準・文化、人材・スキル、テクノロジー、運用・プロセス、ガバナンス、ビジネスモデル・エコシステムといった多岐にわたる領域で、DXを実施するための準備状況や実行能力を表現するものです(たとえば、<24><25>)。業務の多くを紙と対面でやりとりしている業務が多い企業は、デジタル成熟度は最も低いと評価されます。デジタル成熟度が低い企業が、難易度が高く、大規模なDX戦略を実行しようとしても、現場が抵抗する、経営陣の合意が取れない、システム化が頓挫するといった様々な障害に遭遇します。デジタル成熟度のレベルに応じたDXの取り組みを実施すれば成功率が高まります。DX施策の要件に、「部門、企業を超えた変革」がありますが、これを実行するためには、部門の枠を超えたコラボレーションやチームワークが重要であり、これを支援する経営、環境、文化がポイントになると指摘されています<26>。

4.新型コロナウィルス流行によるDX推進の再点火

新型コロナウィルスの流行によるサプライチェーンの寸断、生産の停滞、自粛要請による在宅勤務など、企業の準備ができていない状況で様々な問題点が顕在化しました。日本企業を含む世界の企業は、感染を防止するための非接触環境、リモート操作、状態の可視化による状況対応などの対策を必要としており、DXをPoCやパイロットではなく、実装して効果を上げる取組みが必須となってきました。
日本企業では、政府の自粛要請以降、国内拠点を中心に緊急に取り組んだ施策は主に多い順から、テレワークやリモートアクセス環境整備、オンライン会議などコミュニケーションツール、PC・モバイルデバイスの導入<27><28>、ペーパーレス化、電子承認、オンラインセミナー開催<28>となっています。テレワークの実施率では、3月に26.1%から6月には67.3%に跳ね上がっています<29>。3月以降の数か月はまさに在宅勤務とこれを前提とした業務を実施するための環境整備を推進していたと言えます。
今後の取組みとしては、在宅勤務のIT環境整備後に必要となる業績評価や人事管理などの働き方改革、対顧客分野では、オンライン営業ツールによる非対面営業の強化、EC(電子商取引)など販売チャネルのオンライン化、モノやサービスの提供方法として、資産・設備の稼働管理、サブスクリプション、サプライチェーンにおける企業間情報共有が挙がっています<30>。
一方、海外企業でも、同じ動きにあります。クラウド通信業界のTwilioが主要先進国の企業役員2500人以上を対象に調査したところ<31>、新型コロナにより、97%がDXのスピードアップし、デジタル計画を平均6年加速させたと回答しています。従来のDX推進上、次に打破する課題については、1.エグゼクティブの承認(37%)、2.明確な戦略の欠如 (37%)、3.レガシーソフトウェアを置き換えることへの抵抗(35%)、4.不十分な予算(34%)、5.時間の不足(34%)と回答しています。つまり、これまでのDX実施に比べて、エグゼクティブが容易に承認し、明確な戦略が作成され、レガシーシステムの置き換えがスムーズになったとしています。
Mckinsey<32>によると、すべての産業にわたるサービスへのリモート作業とデジタルアクセスへの歴史的な展開が実施されており、消費者、ビジネス向けのデジタル化が、4月からの約8週間で5年間分前進したとしています。銀行は、業務を遠隔の販売・サービス組織に移行し 、ローンや住宅ローンの柔軟な支払いを行い、顧客へのデジタル処理を開始している。食料品販売では、オンライン注文と配送を主要ビジネスと位置づけ、大胆なシフトを開始している。製造業では、先進的なスマートファクトリーとサプライチェーンの計画を積極的に策定していると説明しています。このように新型コロナ流行を契機に、日本国内、海外ともに、デジタル化、DXを強力に推進しようとする動きになっています。
今後のDX推進は、短期的には、新型コロナ対応の環境整備ですが、中長期的には、新型コロナ後のニューノーマルの経営環境に適用するための環境整備になります。後者は従来の方法で推進すると失敗の繰り返しになります。従って、従来のDX推進の失敗原因を振り返り、十分対策を練った方法で進めることが必要になります。そこで、次回はDXの今後の進め方について検討します。

IoT時代到来 予知保全への挑戦

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参考文献

<1>Megan Scudellari, How the pandemic might play out in 2021 and beyond,nature NEWS FEATURE,05 AUGUST 2020
<2>Sarun Charumilind, Matt Craven, Jessica Lamb, Adam Sabow, and Matt Wilson,When will the COVID-19 pandemic end?,McKinsey&Company Article,21 September 2020
<3>たとえば、花村 遼, 田原 健太朗,新型コロナの収束シナリオとその後の世界(3)収束まで「3年から5年」が現実か,日経バイオテク,2020,04.30
<4>渡辺,江口,第2回装置産業の設備保全・保守メンテナンスを取り巻く環境,エクサ連載コラム「AI・IoTによる未来の保全」,
URL:https://www.exa-corp.co.jp/column/conservation-2.html
<5> 東京商工会議所,新型コロナウィルス感染症への対応に関するアンケート調査結果, 2020年4月
<6> アドビシステムズ,テレワーク勤務のメリットや課題に関する調査結果, 2020年3月
<7> 江口、青山, 東京大学大学院システム創成学専攻/技術経営戦略学専攻 「グローバル生産システム」講義資料,2020.6.9
<8> 総務省,2016年度版情報通信白書, 2016
<9> 経済産業省,2020年度版ものづくり白書, 2020
<10> CRISP-DM ヘルプの概要, IBM Knowledge Center,URL: https://www.ibm.com/support/knowledgecenter/ja/SS3RA7_18.1.0/modeler_crispdm_ddita/clementine/crisp_help/crisp_overview.html
<11>清水 博, IT革命 2.0~DX動向調査からインサイトを探る, ITmedia エンタープライズ,2020.3
*データは、Dell Technologies社2019年12月調査による。
<12>Markus Rossmann etc. Smart Factories  How can manufacturers realize the potential of digital industrial revolution,Capgemini Digital Transformation Institute,2018
<13>WORLD ECONOMIC FORUM, Global Lighthouse Network- Insights from the Forefront of the Fourth Industrial Revolution, White Paper 2019
<14>Digital/McKinsey, Digital Manufacturing - escaping pilot purgatory, July 2018
<15> Michael R. Wade,DIGITAL TRANSFORMATION: 5 WAYS ORGANIZATIONS FAIL,IMD Articles,2018.12
<16> Mike Sutcliff , Raghav Narsalay and Aarohi Sen, The Two Big Reasons That Digital Transformations Fail, Harvard Business Review ORG,2019.10
<17> 経済産業省, デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DXガイドライン), 2018.12
<18> McKinsey, Digital Manufacturing - escaping pilot purgatory, July 2018
<19> G. C. Kane, D. Palmer, A. N. Phillips, D. Kiron and N. Buckley. Strategy, not Technology, Drives Digital Transformation, Becoming a digitally mature enterprise. MIT Sloan,2015
<20>Thayla Zomer, Andy Neely & Veronica Martinez, Enabling Digital Transformation - An Analysis Framework, UNIVERSITY OF CAMBRIDGE, Cambridge Service Alliance Working Paper, May 2018
<21>Danielle Hernandez, Why Companies Fail at Digital Transformation, IDC MARKET SPOTLIGHT, IDC #EMEA44583518, January 2019
<22>ボストンコンサルティンググループ,デジタルトランスフォーメーションに関するグローバル調査(2020年4月~6月実施),DIGITALBCG,2020.10
<23>経済産業省,DXレポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~, 2019.9
<24> Roman Teichert, DIGITAL TRANSFORMATION MATURITY - A SYSTEMATIC REVIEW OF LITERATURE, ACTA UNIVERSITATIS AGRICULTURAE ET SILVICULTURAE MENDELIANAE BRUNENSIS,2019.6
<25> I.V. Aslanova,A.I. Kulichkina, Digital Maturity Definition and Model, Conference: 2nd International Scientific and Practical Conference “Modern Management Trends and the Digital Economy: from Regional Development to Global Economic Growth” (MTDE 2020), January 2020
<26>KANE, G., PALMER, D., PHILLIPS, A. et al. 2017. Achieving digital maturity. Research Report Summer 2017. MIT Sloan Management Review & Deloittee University Press.
<27>ITR,「コロナ禍の企業IT動向に関する影響調査(2020年4月実施)」, 2020.5
<28>帝国データバンク,新型コロナウィルス感染症に対する企業の意識調査,2020.8
<29>東京商工会議所,「テレワークの実施状況に関する緊急アンケート」調査結果, 2020.6月
<30> JUAS,NRI,デジタル化の取り組みに関する調査,2020.5
<31>Twilio,COVID-19 DIGITAL ENGAGEMENT REPORT,2020年6月6日~24日調査実施
<32> Mckinsey,The COVID-19 recovery will be digital: A plan for the first 90 days, Mckinsey Article, 2020.5.14

執筆者紹介

連載コラム AI・IoTによる未来の保全

わが国は、社会インフラ、多くの産業の成熟化、高齢化、少子化に伴う人口構成の変化から、先進国でも未経験の未来を迎えようとしています。戦後から50年以上建設を続けて来た社会インフラはもとより、製造業では高度成長期に花形産業だった大規模プラント、工場が建設時期の順に老朽化を迎えており、事故の発生件数が増加しつつあり、いずれ活用できなくなる時期が目前に迫っています。労働力人口の急激な減少加えて、ベテラン社員の退職によるノウハウの喪失が顕著になっており、災害後の早期の復旧ができないどころか、施設や設備を維持することも難しくなることが容易に予想できます。

従来、資産管理(アセットマネジメント)は、資産を維持するコストで見る傾向にありましたが、本来はISOで定義されているように設備稼働維持のPDCAの運用で見るべきであり、近年、国家や産業の成長が見込めない中で、既存の資産(アセット)を如何に効率的に維持しながら利用できるかといった観点が見直され、必要不可欠な経営手法と注目されています。

本コラムでは、近年、盛んに導入されているデジタル化や欧米で盛んに取り組まれている第四次産業革命のコアとなっている設備保全手法も含め、次世代の保全のあり方について議論します。

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