はじめに
AIアシスタント「たまちゃん」は、日々、社内のユーザーに活用いただいています。エクサに関するさまざまな分野の質問が届く中で、たまちゃんがすぐに適切な回答を見つけられるケースもあれば、たまちゃんの知識範囲外だったりして役立つ回答を提供できない場合もあります。
こうした「たまちゃんが回答できない質問」に直面した際、ユーザーは、次にどうすればいいのか悩んでしまうことがあるかもしれません。
そこで、たまちゃんが回答できない場合でも、ユーザーの疑問解決をサポートできるよう、たまちゃんのUI/UX(ユーザーインターフェース/ユーザーエクスペリエンス)向上を目指した取り組みを進めてきました。今回は、その中で実施した以下2つの施策についてご紹介します。
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検索したコンテンツを提示
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問い合わせ先を案内
UI/UX改善に取り組む前
これまでのたまちゃんでは、ユーザーからの質問に回答できなかった場合、図1のように「回答が見つかりませんでした」といったメッセージと、サポート範囲についての案内だけを、ユーザーに返答していました。

図1.回答が見つからなかった場合のチャット画面
しかし、このような返答だけでは、「たまちゃんがどんなコンテンツを探した結果、答えを見つけられなかったのか」や「ユーザーは疑問を解決するために次は何をすればいいのか」といった点が分かりにくいという課題がありました。
こうした課題を解決するために、2つの施策に取り組むこととしました。
「検索したコンテンツを提示」
たまちゃんは、ユーザーからの質問に対して、まず関連するコンテンツ(社内ドキュメント、SlackのQAチャンネル内での有人とのやり取りなど)を検索し、その検索結果を元に回答を生成しています。
これまで、たまちゃんは回答が見つかった場合のみ、回答内容に検索したコンテンツを添えてユーザーに提示していましたが、図2のように回答が見つからなかった場合においても、検索したコンテンツをユーザーに提示するようにしました。

図2.回答が見つからなかった場合も検索したコンテンツを提示
これにより、ユーザーは一般的な検索システムに似たような感覚で、質問に関連するコンテンツを自分でチェックできるようになり、必要な情報が見つかる可能性が広がりました。
この施策を適用後、実際にユーザーから「たまちゃんは回答を見つけられなかったけれど、提示されたコンテンツを確認したところ、疑問を解決できました」という声をいただきました。
「問い合わせ先を案内」
図3のように、たまちゃんが回答を見つけられなかった場合で、質問内容に合った問い合わせ先のSlackチャンネルがある時は、そのSlackチャンネルをユーザーに案内するようにしました。

図3.回答が見つからなかった場合にSlackチャンネルを案内
この施策により、ユーザーがSlackチャンネルの過去ログを参考にして自分で解決したり、Slackチャンネル内の担当者に質問しやすくなりました。
質問内容に合ったSlackチャンネルを探す仕組みには、生成AIを活用しています。検索したコンテンツから回答を生成するプロンプトとは別に、今回新たに以下のプロンプトを用意しました。このプロンプトは、機械学習分野における分類タスクを参考にして、「与えられたチャンネル一覧の中から、質問の問い合わせ先に適したチャンネルを選択する」という方針で作成しました。
プロンプト1.質問内容に合ったSlackチャンネルを探す
system: あなたはユーザからの問い合わせに対して、適切なチャンネルに誘導するAIアシスタントです。 user: #入力された質問 に対して、回答が得られそうなチャンネルを #チャンネル一覧 から選択してください。 また、チャンネルを選択する時は #チャンネルを選択する時のルール に従ってください。 # チャンネルを選択する時のルール ・# 入力された質問 に適したチャンネルが複数見つかった場合は、チャンネルを複数選択して良い ・# 入力された質問 に適したチャンネルが見つからない場合は、チャンネルを1つも選択しなくて良い ・選択したチャンネルは、#出力形式 に従って出力すること # 出力形式 ## チャンネルを複数選択した場合 [{"channel_name":"選択したチャンネル名", "score": "確信度(0~1の範囲)"}, {"channel_name":"選択したチャンネル名", "score": "確信度(0~1の範囲)"},,,] ## チャンネルを1つ選択した場合 [{"channel_name":"選択したチャンネル名", "score": "確信度(0~1の範囲)"}] ## チャンネルを1つも選択しなかった場合 [] # 入力された質問 {{ここに入力された質問を設定}} # チャンネル一覧 [ {"channel_name":"{{ここにチャンネル名を設定}}", "channel_description": "{{ここにチャンネルの説明文を設定}}"}, (チャンネルの数だけ設定) ]
このプロンプトを使い、何パターンかの質問内容に対して、生成AI(GPT-4o mini:低価格な軽量モデル)にチャンネルを予測させた結果、表1のようになりました。質問内容に合ったチャンネルを正確に予測できていることが分かります。
# | 質問 | 予測結果 |
---|---|---|
1 | インストールが許可されたソフトウェア一覧を教えて | 情報システム部のQAチャンネル(確信度:0.9) |
2 | スマホのパスワードを失念してしまった | モバイル端末に関するQAチャンネル(確信度:0.9) |
3 | 研修システムにログインする時のパスワードは何のパスワードですか? |
|
4 | 明日、会議室を利用したいのですが、どう予約すればよいでしょうか? | 総務部のQAチャンネル(確信度:0.9) |
5 | 椅子が壊れました。 | 総務部のQAチャンネル(確信度:0.9) |
6 | 今日の天気を教えて | 「質問内容に合ったチャンネル無し」と予測 |
この「問い合わせ先を案内する」施策を導入した結果、実際にユーザーが「たまちゃんから、この問い合わせ先チャンネルを案内いただきました。質問内容は~です」と案内されたチャンネルで有人に質問し、無事に解決までつながった事例がありました。
また、たまちゃんでは、SlackのQAチャンネルで行われている有人対応のやり取りを、RAG(Retrieval Augmented Generation)のコンテンツとして、継続的に取り込む仕組みを導入しています。今回の施策によって、たまちゃんが回答できなかった場合は、ユーザーをスムーズに有人対応に案内できるようになりました。これにより、有人対応でやり取りされた内容も新たなRAGのコンテンツとして蓄積しやすくなり、たまちゃんの知識をより一層充実させていくことが期待できます。
おわりに
今回のUI/UX改善により、AIアシスタント「たまちゃん」が回答できない場合でも、ユーザーは追加の情報を得たり、適切な問い合わせ先を見つけたりしやすくなりました。
AIアシスタントは、常にすべての質問に完璧に答えられるとは限りません。だからこそ、AIアシスタントが回答できない場合でも、ユーザーが問題解決できるようサポートする仕組みが重要です。こうした仕組みがAIアシスタントのUX/UXを大きく左右します。
この記事で紹介した取り組みが、AIアシスタントのUI/UXを高める一つの方法として、皆さまの参考になれば嬉しいです。
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執筆者紹介

連載コラム:エクサの生成AIチャレンジ日記
本コラムでは、エクサ社内における生成AIの活用に向けた技術的な取り組みと、実際の業務適用事例をご紹介いたします。生成AIによる業務効率化や新たな価値創造のヒントとなれば幸いです。
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