【第3話】お客様と共にプロジェクト成功に向かって
6.プロジェクトの課題対策
前回第2話は、「リスク管理計画」をもとに洗い出したリスクから派生したプロジェクト上の課題についてご紹介しました。今回の第3話では、その課題についてプロジェクト内でどのような対策を講じたかについてご紹介いたします。
6-1.課題対策①「プロジェクト管理フレームワークによるプロジェクト管理」
前回第2話で示した通り、課題①としてあげた「複数のステークホルダを統制する管理方法」について、当プロジェクトで実践したプロジェクト管理方法をご紹介していきます。
当プロジェクトを統括するグループ企業のシステム部門では、複数のクレジットカード加盟店およびシステムベンダによるグループ全体に跨る横断的なプロジェクトを管理した実績がなく、プロジェクトの体制上に複数のステークホルダを統制する役割(PMO)を配置した実績がありませんでした。
そこで、エクサが過去に参画した他社プロジェクトの経験から、複数のステークホルダが関わる複雑なプロジェクトにおいては、プロジェクトの横断的な全体課題や組織に関する課題がプロジェクト成功の阻害要因となるケースがあることを理由に、複数のステークホルダを統制するPMOをプロジェクトの体制上に配置することにしました。(図1)。
当プロジェクトには、プロジェクト全体を統括するシステム部門側の立ち位置であるPMOの役割で参画しました。そのなかで、PMOとしてプロジェクト全体を推進するために、複数のシステムベンダを管理する方法としてエクサが定義するプロジェクト管理フレームワークを活用することにしました(図2)。
このプロジェクト管理フレームワークは、複数のシステムベンダの管理およびプロジェクトを円滑に推進することが可能となる必要最低限項目として①進捗管理、②リスク管理、③課題管理、④品質管理、⑤コミュニケーション管理、⑥変更管理をプロジェクト管理項目とします。
特に、進捗管理については、複数のシステムベンダが携わるプロジェクトであることから、プロジェクト全体整合性の確保と合わせ、プロジェクト全体の進捗を共有します。そして、グループ企業とシステムベンダ間の連携・調整が必要となる時期等の可視化を図るため、プロジェクト定例会議の週次報告に向けた進捗管理のプロセスを定めます。(図3)。
また、課題管理についても、当プロジェクトで導入する新決済スキームは、複数ベンダのシステムを連携しあう特性があることから、各システムに跨った課題管理が必要となります。そこで、各課題を「影響度」※1により区分し、影響度に応じた課題管理を実施します。
※1:影響度の定義
影響度「H」(Hight):マスタースケジュール・予算に影響する可能性あり
影響度「M」(Middle):PJ全体作業、複数ベンダに影響する可能性あり
影響度「L」(Low):個別ベンダの進捗にのみ影響する
なお、影響度「H」となった課題については、重要課題として位置づけ、グループ企業と各関係ベンダ間で課題共有を行い、必要に応じて重要課題の対応案検討会議を開催しながら課題解決を図ります(図4)。
このようなプロジェクト管理フレームワークを活用して、プロジェクトに関係する各ベンダ間の管理プロセス、管理ツールを同一にすることにより、プロジェクト全体で整合管理を実現することができます。また、同一粒度による管理を行うことにより、各タスクや課題・リスクの関係性を管理することができたため、仕様やスケジュールの統合的な変更管理を実現することもできます。
6-2.課題対策②「優先度決定マップを利用したスケジュール作成」
次に、課題②としてあげた「システム要件の分類とマスタースケジュール作成」について、システム要件の分類とマスタースケジュール作成までの方法をご紹介していきます。
新決済スキームを導入する当プロジェクトでは、ご紹介の通り複数のステークホルダが介在します。そのため、業務都合等によりクレジットカード加盟店ごとにサービスインが異なり、多種多様の要件が発生します。その中で、要件の対応順や対応可否を決定するためには、要件の重要度やスケジュール上の緊急度をもとに、要件の対応優先度付けをすることが有用となります。
課題②の対策として、グループ企業のシステム部門内で整理されていない業務要件やシステム要件を特性に合わせて複数のテーマに分類します。そして、分類したテーマ毎に、「優先度決定マップ」を利用して要件の対応優先度付けを実施します。
優先度決定マップは「要件の重要度」と「スケジュール上の緊急度」の2軸とし、マップ内を4つのエリア(右下エリア「優先度:高①」、右上エリア「優先度:高②」、左上エリア「優先度:中」、左下エリア「優先度:低」 )に分類します(図5)。そして、エリア毎に対応優先度の定義を定めます。
そして、決定した優先度と見積りした各テーマの対応工数をもとに、テーマ単位にマスタースケジュール(要件定義/設計/開発UT/結合テスト/外部接続テスト/総合テスト/本番リリース)を作成します。
この「優先度決定マップ」を活用することにより、各テーマ(要件)におけるプロジェクト上の「要件の重要度」と「スケジュール上の緊急度」が明確になりグループ企業および各システムベンダ間で共通認識をもてたことは、ベンダ毎に要件決定の期限設定を行う時やプロジェクトのマスタースケジュールを策定する時に大きなメリットになると言えます。
6-3.課題対策③「プロジェクト期間内における複数回契約」
最後に、課題③としてあげた「マスタースケジュールやプロジェクト費用の柔軟な変更/調整」について実施した対策についてご紹介します。
当プロジェクトは、グループ全体に跨る横断的なプロジェクトであるため、他グループ加盟店の要件検討や開発の進捗具合によってマスタースケジュールや要件の変更等の外的要因による変動性リスクが高いプロジェクト特性がありました。そのため、マスタースケジュールの変更やプロジェクト費用の調整等でグループ企業の要望に柔軟に対応するためにも、本来ならばプロジェクトの開始から終了まで(例えば、要件定義から本番リリース)の一括契約が望ましいところ、当プロジェクト期間内で複数回契約する形態(約1~3か月単位の契約)を採用することとしました。
この対策を実施することにより、プロジェクト全体で起こるスケジュールやプロジェクト費用に関する問題などにも、リソース調整やスケジュール調整等による対応など、契約に絞られない柔軟な対応を行ったことでプロジェクトにおけるグループ企業側の負荷の低減につながったと言えます。
7.課題の対策効果
プロジェクトに関連するシステムベンダを横断的に管理する方法を策定しない場合、プロジェクト管理(進捗管理、課題管理、リスク管理、コミュニケーション管理、変更管理等)がプロジェクトで統一できず、各システムベンダ独自の管理方法となり、各関係者の認識相違等に起因するスケジュール遅延、手戻り、開発コスト増大、品質低下が発生する可能性が高かったと推測できます。
しかしながら、プロジェクト管理フレームワークを利用して遅延タスクの管理、プロジェクトのQCDについてのリスクの軽減、および回避の実現、重要課題の管理と早期解決、変更仕様の管理などを実施したことにより、スケジュール遅延や仕様の各社間の認識齟齬による手戻りなく、グループ企業の開発コスト抑制に貢献することができたと言えます。
また、様々な要因からマスタースケジュールの変更を余儀なくされたとしても、優先度決定マップの縦横2軸に設定する基準を変更することで、プロジェクト特性や状況に合わせたテーマの分類および優先度を設定することが可能であり、テーマ単位の再見積りや優先度に添ったリスケジュールを図ることも可能です。
8.おわりに
ASPサービスを利用するユーザー企業が増加する昨今、当コラムで実例としてあげたプロジェクトのように、グループ企業や提携企業で同一のASPサービスを利用するスキームを導入する金融系の企業が増加しています。その中で、複数のプロジェクトや組織を横断的に統制/管理するPMOの役割は重要性も増しています。
エクサのリスク管理をベースとしたプロジェクト管理方法を実践することにより、お客様プロジェクトが抱える問題を解決し、お客様と一緒になってプロジェクトを成功裏に導くご支援を実施して参ります。
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