グローバル展開する製造業にとって、各国・各拠点間で正確かつスピーディに情報連携することが、事業成長に不可欠な要素となっています。しかしながら、商品情報が各拠点で分散管理され、情報の分断による機会損失が発生しているのが実情です。
本記事では、商品情報の分断がグローバル製造業にもたらす具体的なリスクと、それに対する解決策として注目が高まっているPIM(Product Information Management:商品情報管理)の導入効果について、事例を交えて紹介します。
なぜグローバル製造業で情報連携の断絶が起こりやすいのか
グローバル展開する多くの製造業では、各拠点間の情報連携にさまざまな課題が存在しています。特に、商品情報の運用や管理においては、構造的な問題が多くの企業で共通して見られます。
株式会社Contentservが実施した「BtoB製造業のグローバル展開に関する現状調査」では、海外で販売する商品情報の管理やマーケティングコンテンツ運用上の課題について、複数回答形式でアンケートが行われました。その結果、以下の3つの課題が特に多く挙げられています。
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「現地法人や取引先への情報提供が属人的」:44.9%
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「日本本社と海外拠点での商品情報の二重管理」:35.5%
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「商品情報の翻訳とローカライズ」:32.7%
出典元:BtoB製造業のグローバル展開に関する現状調査|株式会社Contentserv
以下では、それぞれの課題がもたらす影響について詳しく見ていきます。
情報提供の属人化がもたらす商品情報のばらつき
調査で最も多く挙げられた「現地法人や取引先への情報提供が属人的」(44.9%)という課題は、各部門や拠点が独自に情報を保持・運用している実態を示しています。
Webサイトやカタログ、広告、チラシなどの制作業務が部署単位で分散して行われている企業では、それぞれの部署が独自に商品情報を管理しているケースが多く見られます。その結果、情報修正や追加が各部署で個別に行われ、表記ゆれやスペックの相違などが発生しやすくなっています。
さらに、「データガバナンスが十分にできていない理由として当てはまるものを選んでください(複数回答可)」という問いに対し、「グローバルに標準化された商品情報管理の仕組みがない」と回答した企業が約6割にのぼり、全社的な整合性を保つ体制が整っていない実態も明らかになっています。
本社と現地法人で重複する作業による非効率
また、「日本本社と海外拠点での商品情報の二重管理」(35.5%)という調査結果は、作業の重複や情報の非効率な運用に直結しています。
多くのグローバル製造業では、日本本社で商品写真の撮影や販促資料、カタログの制作を行ったあと、海外の現地法人でも同様の作業を繰り返すケースが見られます。このような重複作業は、人的リソースの浪費や情報更新の遅れを引き起こす要因となっています。
結果として、現地市場の状況に応じた柔軟な対応が難しくなり、情報展開のスピードが損なわれる可能性があります。
翻訳・ローカライズの遅れによる市場投入の遅延
調査では、「商品情報の翻訳とローカライズ」が課題として32.7%の企業に挙げられており、多言語対応の難しさが明らかになっています。
グローバル製造業では、海外向けの販促資料制作において、日本語版を本社で制作した後に翻訳・ローカライズを行うのが一般的な流れです。このプロセスでは、現地法人が本社の翻訳作業完了を待たなければならず、展開スピードに大きく影響を及ぼすことがあります。
また、「あなたのお勤めのグローバル展開において重要と認識している経営課題について教えてください(複数回答)」という問いに対して、「現地法人や取引先との情報連携」と回答した企業は41.1%にのぼっており、情報共有体制の改善が急務であることがうかがえます。
情報分断が事業に与える具体的な損失
商品情報の分散や連携の断絶は、グローバル製造業の事業運営に深刻な損失をもたらします。これらの課題は単なる運用上の問題にとどまらず、企業の競争力や収益性に直接的な影響を与える重要な経営課題となっています。主な損失としては以下が挙げられます。
市場投入の遅延による機会損失
商品情報の分断は、新製品の市場投入スピードに直接的な影響を与えます。新製品の市場投入において、商品情報の準備遅延や商品仕様情報の不整合により、競合他社に先行されるリスクがあります。製造業では、顧客の投資計画に合わせた提案タイミングが重要であり、商品情報提供の遅れは受注機会の損失につながる可能性があります。
新興国の製造業の台頭により競争が激化している現在、現地に最適化された商品情報を迅速に展開できるかが競争優位を左右する重要な要素となっています。
運用コストの増大と業務効率の低下
前述の調査で明らかになった「日本本社と海外拠点での二重管理」や「現地法人や取引先への情報提供が属人的」といった課題は、直接的な運用コスト増を招きます。同じ商品情報を日本本社と複数の海外拠点で個別に管理・更新することによる重複作業が継続的に発生し、グローバル全体での作業効率が大幅に低下します。
商品情報の修正や新製品情報の追加において、各地域の拠点で個別に作業が行われるため、時差や言語の違いによって情報展開に時間を要します。特に海外現地法人では、人事異動や組織改編時の引き継ぎ業務がより複雑化し、商品情報管理のナレッジが属人化する課題も発生しています。
商品情報不備による信用の失墜
商品仕様の誤案内、価格情報の不整合、カタログやWebサイトでの商品情報の齟齬などは、国内外を問わず顧客との信頼関係にダメージを与えます。特にグローバル市場では、各地域の商慣習や規制要件の違いにより、情報の不整合がより深刻な問題に発展する可能性があります。
一度失った顧客の信頼を回復するには時間と労力が必要であり、顧客が現地の競合他社に流出するリスクも高まります。商品情報の不整合や提供遅延は、各国の顧客満足度を直接的に低下させ、グローバル全体での長期的なビジネス関係の悪化につながる可能性があります。
グローバル製造業におけるPIM(商品情報管理)という解決策
グローバル展開が進む製造業にとって、商品情報の分断や管理の煩雑化は大きな経営課題となっています。拠点ごと、部門ごとに情報がバラバラに管理されることで、現場の負担やビジネス機会の損失が生じやすくなっているのが現状です。こうした課題の根本解決につながる仕組みとして、近年注目されているのがPIM(商品情報管理)です。
PIMとは何か
PIMは、企業が持つ商品情報を一元的に管理し、必要な部門・チャネル・拠点へ正確かつ迅速に配信するための仕組みです。ERPやPLMは企業内部のプロセス管理であるのに対し、PIMは"顧客に伝えるための商品情報"全体を統合管理します。商品スペックはもちろん、説明文や画像、ラベル、ロゴなど多様な情報もまとめて扱えるのが特長です。
PIMについての詳細はPIM(商品情報管理)とは?をご覧ください。
グローバル製造業におけるPIMの効果
グローバル展開する製造業が直面しやすい情報管理の悩みに対して、PIMはどのように具体的な解決策をもたらすのでしょうか。ここでは、特に多くの企業が抱える重要な課題について、PIMによる主な効果を以下に整理します。
二重管理・重複作業の解消
従来のグローバル製造業では、日本本社で作成した商品情報を海外現地法人が再度編集・制作するという非効率なプロセスが常態化していました。PIMを導入することで、本社・海外現地法人・各拠点が単一の情報基盤を共有し、商品データ・コンテンツを一元管理できるようになります。
これにより、複数拠点での写真撮影やカタログ制作の重複を避けられるようになり、二重メンテナンスなどの無駄な作業も大幅に削減されます。
商品情報の統一と品質向上
部署別・拠点別での個別管理により発生していた商品情報の不整合や表記ゆれ、スペック違いといった問題を、PIMの一元管理・標準化の仕組みで抜本的に解決できます。グローバル全体で統一されたデータガバナンスと承認ワークフローにより、情報品質の向上と組織横断での標準化が実現されます。
さらに、商品情報の更新や修正が本社で行われると、全世界の拠点に即座に反映されるため、常に最新で正確な情報を維持できます。これにより、顧客・パートナーに対するブランドイメージや商品説明の一貫性が保たれ、企業の信頼性とブランド価値の向上につながります。
多言語・ローカライズ対応の最適化
PIMの多言語対応機能により、本社主導でのデータ翻訳・現地独自の規制対応・ローカル修正の自動展開が可能になります。従来の属人的な現地編集プロセスや、翻訳完了を待つことによる市場投入遅延のリスクが大幅に軽減されます。
各国の法規制対応や現地事情の反映も標準化されたプロセスで管理できるため、コンプライアンス対応の確実性も向上します。結果として、現場への情報展開のスピードと正確性が飛躍的に高まり、グローバル市場での競争優位性を確保しながら機会損失を最小化できます。
グローバル製造業の成功事例
株式会社ミツトヨ様:情報基盤の統一によるグローバル競争力強化
ここでは、精密測定機器の総合メーカーとして世界に展開する株式会社ミツトヨ様の事例をご紹介します。同社は5,500種類以上の商品を扱いながら、長らく商品情報のデジタル化が進んでいませんでしたが、PIMの導入により大きな成果を挙げています。
課題:グローバル展開における商品情報のデータ化とデジタル対応の遅れ
精密測定機器の総合メーカーである株式会社ミツトヨ様は、業界最多の5,500種類以上の商品群を有し、売上の7割以上を海外が占めるグローバル企業です。しかし、これだけ多数の商品を手がけているにもかかわらず、ITシステムによる情報管理はほとんど進んでおらず、営業活動も紙のカタログによって行われているのが実情でした。e-コマースを推進する海外拠点や販売代理店からは「商品情報をデータで提供してほしい」という強い要望が高まっていましたが、このままでは時代の変化に対応できず、グローバル市場での競争力低下が懸念されていました。
取り組み:Contentservを基盤とするPIMシステムの構築
同社グローバルマーケティング本部は部門主導の取り組みとして、PIM(商品情報管理)システムの導入を決定しました。「スモールスタートで構築を始めて、徐々に各業務部門や海外拠点の要望を巻き取りながら発展させていく」というアプローチで、Contentservを基盤とするシステム構築を開始しました。
特にグローバル展開において重要だったのは、各地域の状況に応じた柔軟な対応方針の策定です。ヨーロッパや北米を中心とした海外拠点では既に独自のPIMシステムの導入を進めており、人的リソースも豊富に有していました。そのため、無理に日本のPIMシステムを押し付けるのではなく、各拠点のPIMと柔軟にデータ連携する方法を検討しました。一方で、PIMシステムの導入を検討している現地法人に対しては、日本のPIMシステムから直接商品情報を提供する体制を構築しました。
また、南米地域の現地法人が独自に運営しているe-コマースに対しても、日本のPIMシステムから商品情報を提供できるよう協議を進めるなど、地域特性を考慮したメリハリのあるグローバル展開戦略を策定しました。
5,500種類以上に及ぶ商品群の情報をカタログからデータ化し、CMSと連携してWebサイトから商品情報を発信できる仕組みを整備することで、グローバル全体での情報統一と迅速な展開を実現しました。
成果:グローバル市場での迅速対応と業務効率化
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新商品投入スピードの飛躍的向上:従来のWebサイトでは2~3か月を要していた新商品の情報公開のタイムラグを解消。これにより、グローバル市場での競合他社に先行した商品投入が実現。
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海外拠点との統合的な情報管理:海外拠点の独自のPIMやWebサイト、e-コマースとも柔軟に連携し、地域ごとの状況を考慮したメリハリのある展開を実現。各国のWebサイトに対して日本のPIMシステムから直接商品情報を提供し、南米地域のe-コマースへの商品情報提供も開始。
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グローバル規模での業務効率化:本社と海外現地法人での二重管理や重複作業が解消され、商品情報の表記統一やスペック整合性が確保されることで、ブランド価値の向上と顧客信頼の強化を実現。
グローバル製造業の成長を左右する商品情報戦略
グローバル展開する製造業にとって、商品情報の分断は競争力低下や機会損失に直結する重要な経営課題です。本社と海外拠点での二重管理、部署間での情報分散、多言語対応の遅延などが企業成長を阻害している現状があります。
PIMは、これらの課題に対する解決策として注目されています。単一の情報基盤による一元管理、標準化されたワークフロー、多言語対応の自動化により、グローバル製造業特有の情報管理課題を効率的に解決できます。
グローバル市場での競争が激化する中、PIMは単なる情報管理ツールを超えた戦略的ソリューションとして、製造業の持続的成長を支える重要な基盤となるでしょう。
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