製造業では、経営層がDX推進の方針を打ち出しても、現場レベルではなかなか実行に移せないケースが少なくありません。一方で、DXによって確実に成果を上げている企業には、ある共通点があります。
それは、情報基盤の整備、特に商品情報の一元管理に重点を置いていることです。
DXを成功に導くには、最新技術だけでなく、業務の根幹を支える情報の整備が不可欠です。中でも、商品情報の統合管理は、現場の業務効率を高めるだけでなく、顧客体験の向上や新たなビジネス創出の基盤となります。
本記事では、DX推進における商品情報の一元管理がなぜ重要なのかを、実際の企業事例とともに解説します。
DX推進で見落とされがちな情報基盤の課題
多くの企業が最新のAIツールやクラウドシステムの導入に力を入れる一方で、その前提となる情報基盤、特に商品情報の管理体制が十分に整っていないケースがあります。商品情報の正確性や整合性が担保されていなければ、いかに高度なツールを導入しても効果的に活用することは難しく、期待したDXの成果にもつながりません。
商品情報管理の非効率性が隠れたボトルネック
DX推進の方針や投資計画が定まっていても、「思うように進まない」という課題を抱える企業は少なくありません。見落とされがちな要因の一つが、商品情報管理の非効率性です。
株式会社Contentservが実施した「商品情報管理に関する意識・実態調査」によると、商品情報の誤記載により正しい情報に更新するための作業時間や、それに付随するコスト(リカバリコスト)が発生している企業が55.7%に上っています。また、商品情報管理における課題として「情報が複数のシステムやデータベースに分かれている」と回答した企業が39.0%で最も多い結果となりました。
製品情報の管理体制が十分に整備されていないことが、情報修正の手間や部門間の連携不足を招き、日々の業務に支障をきたしている企業も少なくありません。
現場では、商品情報管理に関して以下のような課題が見られます。
-
情報の散在と不正確性
製品仕様やマスターデータが部門・拠点ごとに分散して管理されており、同じ商品でも部署によって異なる情報が存在するケースが発生しています。この結果、更新ミスや情報の食い違いによって顧客への誤提案や商機の損失につながり、企業の信頼性にも影響を与えています。 -
手作業による非効率性
提案資料の作成時には複数のExcelファイルやシステムをまたがって情報収集を行う必要があり、一つの資料を完成させるまでに膨大な時間を要します。また、特定の担当者のみが知っている情報に依存する属人化により、担当者の異動や休暇時には更新遅延が発生し、業務の引き継ぎも困難になっています。 -
システムのサイロ化
部門ごとに異なるシステムやツールを独自に運用しているため、全社横断的なデータ連携・共有が困難な状況です。同じ商品情報でも複数のシステムに重複して入力する必要があり、データの整合性を保つことが難しくなっています。 -
グローバル連携の複雑性
海外拠点との情報連携プロセスが標準化されておらず、拠点ごとに異なる管理方法が採用されています。多言語・多通貨への対応、現地の法規制や商習慣への適応など、グローバル展開に必要な情報管理が複雑化し、統一的な品質管理が困難になっています。
こうした課題は連鎖的に発生し、全体の業務効率を阻害する構造的な問題となっています。そのため、情報基盤の見直しが不可欠です。
DX成功の出発点は情報基盤構築にある
多くの企業がDXに取り組んでいますが、情報基盤の整備を伴わないシステム導入だけでは本質的な効果は得られません。重要なのは、デジタル技術を活用して業務プロセス全体を見直し、新たな価値を創造することです。
そのためには、社内外に散在する商品情報や仕様情報を統合し、正確で信頼性の高い情報基盤を整えることが不可欠です。
なぜなら、どれだけ高度な分析や自動化ツールを導入しても、元となるデータの品質が低ければ、誤った判断や非効率な運用につながりかねないからです。
特に製造業では、製品ライフサイクル全体を通じて膨大な情報が生成・更新されます。設計仕様、製造工程、品質データ、販売情報、アフターサービス情報など、これらすべてが連携してこそ、デジタル変革が実現します。
しかし、多くの企業で見落とされがちなのが、顧客接点における商品情報の整備です。技術仕様書や設計図面などの内部向け情報は比較的整備されている一方で、商品紹介文や特徴、スペック、価格、画像、取扱説明書など、顧客や販売チャネルに向けた情報の管理は後回しにされがちです。
このような顧客向け情報の整備不足は、現在のビジネス環境では大きなリスクとなります。理由として、デジタル時代の顧客は業界を問わず、購買前に十分な情報収集を行い、比較検討を重ねるからです。企業向けの商材であっても個人向けの商品であっても、購買プロセスの初期段階ではWebサイトやデジタルカタログで情報収集を行うのが一般的になっています。
商品情報の質と提供スピードが競争力に直結する時代において、その管理体制の見直しが急務となっています。
商品情報管理がDX推進の基盤となる理由
前章で述べたように、商品情報の質と提供スピードが企業の競争力に直結する現在、商品情報の一元管理は単なる業務効率化を超えた戦略的な意味を持ちます。
商品情報の一元化によって得られるメリットとしては、主に以下の4つの効果が期待できます。
情報の一元管理と品質向上
企業内に散在し、不正確・不完全になりがちな商品情報を一元的に収集・統合管理することで、各部門・関係者が同じ情報を共有でき、業務の連携がスムーズになります。データの重複や矛盾が解消され、正確で信頼性の高いデータを保持できるため、誤情報の配信リスクが減り、顧客との信頼構築につながります。また、統一されたフォーマットで管理されることで、情報探索にかかる時間や手間が大幅に削減され、必要な情報を瞬時に見つけることができるようになります。
業務効率化と生産性向上
商品情報の登録、編集、配信といった手作業による業務を大幅に削減し、自動化できます。これまで営業担当者が各部署に個別に問い合わせて収集していた販促資料やコンテンツ制作・メンテナンスにかかる手間と時間を削減し、情報収集・転記の手間が大幅に削減されることで提案スピードが向上します。また、基幹システムや他の周辺システムとの連携が容易になり、データの収集・配信を自動化できるため、人的ミスの排除や作業の重複防止につながり、組織全体の生産性を向上させます。
市場投入の迅速化と競争力強化
新商品のWebサイト掲載やチャネルへの情報配信にかかるタイムラグを解消し、スピーディーな市場投入を可能にします。ECサイト、モバイルアプリ、カタログ、実店舗など、マルチチャネル(Web・EC・カタログ)展開が容易になり、チャネルごとの特性に合わせた情報発信が可能になります。さらに、多言語・多通貨対応でグローバル市場での情報管理を効率化し、海外拠点やグローバル市場での情報連携の複雑性を解消することで、新しいビジネスチャンスを迅速に捉え、販売機会を最大化できます。
顧客体験向上とビジネス成果
顧客の行動や興味、嗜好に合わせて、パーソナライズされた商品体験を提供できるようになります。画像や動画といったリッチなデジタルコンテンツを商品情報と統合管理し、あらゆるチャネルで魅力的かつ視覚的に訴求できる情報を提供することで、顧客満足度向上と営業力の底上げを実現します。一貫性のある情報提供により、ブランドの一貫性を維持し、顧客ロイヤルティを促進することで、長期的な顧客関係の構築につながります。
商品情報の一元化は、デジタル活用を組織全体に広げていくための重要な土台となります。商品情報の体系的な管理手法は商品情報管理(PIM:Product Information Management)と呼ばれ、近年多くの企業で注目されています。
明確なルールとプロセスに基づき、商品情報を"資産"として部門間で共有・活用することで、情報の再利用性や信頼性が飛躍的に高まります。
成功事例から学ぶ!情報基盤構築のアプローチ
実際に情報基盤構築に成功した企業の事例を見てみましょう。ここでは、異なるアプローチで商品情報の一元管理を実現した2社の取り組みを紹介します。
株式会社ミツトヨ様:5,500種類もの商品情報をデータ化
課題:
業界トップクラスの5,500種類以上の商品を取り扱っていましたが、ITシステムによる情報管理が進んでおらず、営業活動も紙のカタログに依存していました。海外拠点からは「商品情報をデータで提供してほしい」という要望が高まっていましたが対応できず、新商品のWebサイト掲載まで2~3か月のタイムラグが発生していました。
取り組み:
現場部門主導で商品情報管理システムの構築に取り組みました。スモールスタートで構築を始めて、徐々に発展させていくといったアプローチを採用し、海外拠点の多様な要求に対してもシステムが発散しないよう段階的に進めました。データ整備では、各商品の紙カタログを元にデータモデルに整理していく作業を実施。約2万8,000個の商品データをPIMシステムに投入し、webサイトリニューアルに合わせてCMSとの連携を実現しました。
その後も運用範囲の拡張や業務要件に応じた継続的な改善が進められており、現在も全社的に活用が続いています。
成果:
-
従来のWebサイトでは2~3か月を要していた新商品の情報公開のタイムラグを解消
-
海外拠点の独自のPIMやWebサイト、ECサイトとも柔軟に連携
-
全社的な意識変革を呼び起こし、他部門からもデータ活用による業務改革へのモチベーションが高まる
-
新商品を市場に展開するスピードが飛躍的に向上
上記の事例の詳細を詳しく知りたい方は、以下からご覧いただけます。
導入事例:株式会社ミツトヨ様
日本電子株式会社様:4万点の部品情報を一元管理
課題:
20年来運用してきたアフターサービスシステムが古い開発言語で構築されており、最新OSでの稼働や拡張が限界に達していました。パーツ、SWAP、サービス技術情報が製品カテゴリーごとの担当部署に分散し、担当者が個人で管理している情報もありました。総合カタログ作成時には各部署から関係者を集め、持ち寄った情報を一つひとつ整理する煩雑な作業が必要でした。
取り組み:
顧客満足度の向上と社内業務の効率化を目指し、PIM/DAMシステムによるアフターサービスシステムの刷新に取り組みました。システム選定では、機能がリッチすぎる製品ではなく手軽に使える製品を求め、同じような課題を抱えた製造業ユーザーからの情報収集を経て最終決定しました。PIMシステムのコンセプトに合わせて業務を標準化することを基本方針とし、1.パーツ情報管理(ERPとの連動)、2.技術情報管理(DAMでの一元管理)、3.情報検索(容易な照会機能)の3つのポイントに注力。データモデルの定義では関連システムとの並行検討により稼働直前まで見直しを繰り返し、ローコード開発ツールによる自動連携で手作業を解消しました。
成果:
-
約4万点に及ぶ部品データの一括更新を可能として業務効率を大幅に改善
-
各部品に関する最新情報をクリック一つで迅速に検索
-
ECサイトに鮮度の高い充実した情報を反映して顧客満足度を向上
-
データの管理性向上により、価格改定や技術情報の修正を簡単に実施可能
上記の事例の詳細を詳しく知りたい方は、以下からご覧いただけます。
導入事例:日本電子株式会社様
これらの事例が示すように、商品情報の一元管理は単なる効率化にとどまらず、新商品の市場投入スピードの向上、顧客満足度の向上、海外展開の推進など、企業の競争力強化に直結する重要な基盤となります。散在していた情報を統合し、データを"資産"として活用することで、DX推進の土台が構築され、様々な業務変革の実現が可能になります。
商品情報の一元管理はDX成功の前提条件
商品情報管理の非効率性は、DX推進の大きな阻害要因となっています。商品情報の情報基盤を整備することが、企業のDX成功への前提条件となります。
複雑な商品情報をどのように整備し、共有し、活用できるかが、DXの成否を左右します。こうした課題を解決するために、商品情報管理(PIM)が有効なアプローチとして注目されています。
商品情報の基盤を整備することで、部門間の連携が促進され、データに基づく意思決定が可能となります。DX推進の第一歩として、まず自社の商品情報管理の現状を見直すことから始めてみてはいかがでしょうか。
関連する記事
関連ソリューション
関連事例
お問い合わせ
CONTACT
Webからのお問い合わせ
エクサの最新情報と
セミナー案内を
お届けします
