優れた商品を持ちながら、その価値を顧客に適切に伝えられず、売上機会を逃している企業があります。この背景には商品情報の効果的な活用という課題があります。
本記事では、顧客体験向上において重要な商品コンテンツの価値と、それを支えるPIM(Product Information Management:商品情報管理)の戦略的価値について解説します。
商品コンテンツの充実度が購買行動に与える影響
現代の顧客は、購入前に豊富な情報を求める傾向が強まっています。
株式会社Contentservが2025年1月8日~9日に実施した『売れるECサイトの共通点 〜視覚情報の影響力をデータで解明〜』の調査結果によると、商品情報の重要性を示すデータが明らかになりました。
「オンラインショップで、商品の写真や動画がないことが理由で購入を諦めたことがありますか?」という質問に対し、「かなりある」(11.7%)と「ややある」(51.4%)を合わせた63.1%の消費者が購入を断念した経験があると回答しました。
この結果は、商品情報の充実度が購買行動に直結していることを示しており、企業が提供する商品コンテンツの質が顧客の購買行動を大きく左右する決定的な要因となっていることがわかります。
また、同調査の「オンラインショッピングで購入時に重視することは?」という質問(複数回答)では、「説明文や商品情報が詳しく正確であること」を61.3%の消費者が最も重視していました。
顧客は単なる基本情報だけでなく、商品の価値や使用シーンを具体的にイメージできる情報を求めており、これらの期待に応えることが満足度の高い顧客体験の実現につながります。
調査期間:2025年1月8日~9日
対象者:オンラインショップと実店舗の両方で月1回以上買い物をしている20歳~60歳の一般消費者111名
参考:売れるECサイトの共通点 〜視覚情報の影響力をデータで解明〜|株式会社Contentserv
魅力的なコンテンツに必要な要素
顧客体験を向上させる商品コンテンツには、主に以下の要素が必要です。
パーソナライゼーション
パーソナライゼーションとは、個々の顧客に対して提供する情報をカスタマイズすることです。顧客の属性、関心事、行動履歴に基づいて、最適な情報を選択・提供することで、顧客は自分に関連性の高い情報を効率的に得ることができます。情報のパーソナライゼーションは、顧客満足度向上と長期的な関係構築に有効です。
ストーリー性
製品の開発背景、企業理念、サステナビリティへの取り組み、導入事例など、製品に込められた物語が購買意欲に大きく影響します。顧客は単なる機能や価格だけでなく、その製品がどのような思いで作られ、どのような価値を提供しているかという背景に関心を持ちます。ストーリー性のあるコンテンツは、顧客の潜在意識に働きかけて製品への信頼感と企業への共感を生み出します。
関心を惹くタイトル
魅力的なタイトルは、商品コンテンツの入り口として重要な役割を果たします。顧客が限られた時間の中で情報を選別する際、関心を引くタイトルがコンテンツを読むかどうかの判断基準となります。
画像 ・動画
画像は購買意思決定に直結する重要な要素です。前述の調査では、63.1%の消費者が「商品の写真や動画がないことで購入を諦めた」と回答しており、視覚情報の欠如が直接的な販売機会の損失につながっていることがわかります。
また、「オンラインショッピングで購入時に重視することは?」という質問では、45.0%の消費者が「商品写真が鮮明で細部まで確認できること」を挙げ、「商品の様々な角度や使用シーンが見られること」も44.1%の消費者に支持されていることが明らかになっています。
簡潔な説明文
意思決定者の限られた時間の中で、製品の価値を効果的に伝える簡潔な表現が重要です。製品の特徴や利点を専門用語を使わずに分かりやすく説明し、メリットを端的に示すことで、顧客の理解促進と興味喚起を実現します。要点を絞った情報構成により、顧客が短時間で製品価値を把握でき、スムーズな検討につながります。
関連製品の提案
顧客のニーズを包括的に満たす関連製品やサービスの提案により、より充実した購買体験を提供できます。適切なタイミングでの関連商品提案は、顧客満足度の向上とともに、追加購入の機会創出にもつながり、企業の収益性向上に寄与します。顧客にとっても、関連する商品を一度に検討できることで、選択の手間が省け、より効率的な購買が可能となります。
しかし、多くの企業では、魅力的な商品コンテンツを支える基盤整備に課題を抱えているのが現状です。
商品情報管理の複雑化による企業成長への影響
企業の成長とともに商品ラインナップや展開チャネルが拡大する中、商品情報管理はますます複雑になっており、この管理の複雑化は企業の成長速度や市場対応力に直接的な影響を与える重要な課題となっています。
情報のサイロ化による弊害
企業の成長に伴い、商品情報を扱う部門が増加し、情報の分断が生じやすくなります。開発部門では技術仕様、マーケティング部門では販促資料、営業部門では提案書といったように、同じ製品の情報が各部門で個別に管理され、サイロ化が進んでいます。
この状況では、製品仕様の変更が発生した際の情報更新に時間がかかり、部門間で異なる情報が存在してしまうリスクが生じます。製品の更新内容が各部門の資料に反映されるまでに時間差が生じるため、その間に顧客に古い情報を提供してしまう可能性があります。
属人的管理の限界
情報管理が特定の担当者に依存している状況も深刻な問題です。製品知識豊富なベテラン社員が退職や異動した際に、重要な情報の引き継ぎができず、更新プロセスが停滞するリスクがあります。また、新入社員や異動者が製品情報を理解し、適切に活用できるようになるまでの期間も長期化する傾向にあります。
属人的な管理体制では、事業規模の拡大や新製品の追加に対応することが困難となり、成長の足かせとなってしまいます。
多様な販売チャネルでの情報管理の複雑化
デジタル化の進展により、企業は多様なチャネルを通じて顧客にアプローチする必要性が高まっています。Webサイト、ECプラットフォーム、営業資料、パートナー向け情報、展示会資料など、多様な媒体で一貫した製品情報を提供することが求められています。
しかし、チャネルごとに異なるフォーマットや要件があるため、情報の統一管理が困難になっています。特に、多言語展開や地域別対応が必要な場合、管理すべき情報が複雑になり、手作業による管理では対応しきれなくなります。
このような課題が重なることで、企業の成長スピードと顧客対応力に制約が生じています。これらの課題を解決し、魅力的な商品コンテンツを効率的に提供するためには、商品情報管理の基盤を抜本的に見直す必要があります。
商品コンテンツ基盤を整えるPIMの役割
これまで見てきた魅力的な商品コンテンツに必要な要素や情報管理の課題を解決するためには、従来の分散型情報管理から脱却し、統合的な情報管理へのアプローチが必要です。
このような課題を包括的に解決し、顧客体験向上と業務効率化を同時に実現する戦略的基盤として、PIM(Product Information Management:商品情報管理)が注目されています。
PIM による情報統合
PIMは、製品情報を一元管理し、各チャネルへ迅速かつ整合性のある配信を可能にする戦略的基盤です。単なるデータベースとしての機能を超え、企業の情報戦略を支える中核システムとしての役割を果たします。
PIMの導入により、部門間で分散管理されていた製品情報を統合し、情報のサイロ化を根本的に解決します。また、特定担当者に依存した属人的管理から脱却し、標準化された仕組みで情報管理を行えるようになります。これにより、すべての部門が同一の正確な情報に基づいて業務を遂行でき、重要な情報の引き継ぎ不備や更新プロセスの停滞といったリスクを排除できます。
マルチチャネルでの自動配信
Webサイト、ECプラットフォーム、営業の提案資料、パートナー向け情報など、多様なチャネルへの情報展開を自動化し、チャネルごとに異なるフォーマット要件にも対応できます。多言語展開や地域別対応が必要な場合も、一元管理された情報から効率的に各地域・言語版を生成でき、手作業による管理の限界を解決します。
顧客体験を向上させる情報基盤
PIMは、パーソナライゼーション、ストーリー性、視覚情報、関連商品提案といった、顧客体験を高めるためのコンテンツ要素を統合的に管理する役割を担います。
これにより、顧客属性に応じた情報の自動最適化、一貫したブランドメッセージの展開、高品質な画像・動画の効率的な管理、データ品質の標準化、関連商品の動的提案といった機能の実現に必要な、正確で高品質な情報を一元管理・提供します。
従来個別に対応していた要素のデータ基盤を一つのシステムで実現することで、顧客体験の向上が期待できます。
PIM 活用で顧客体験を向上させた成功企業の事例
実際にPIMを活用して顧客体験の改善に取り組んだ企業の事例を紹介します。
アネスト岩田株式会社様:顧客体験向上を目指したデジタル変革
課題:顧客が製品を見つけにくい、情報が不足している状況
アネスト岩田株式会社様では、販売代理店やサービス会社、エンドユーザーが「製品をより探しやすく、選びやすく、注文しやすい」デジタル環境の整備が課題となっていました。お客様満足度の最大化を目指すグループ経営ビジョンの実現に向け、従来の対面中心の営業プロセスから、デジタルマーケティングを重要テーマとした全社横断型の変革が求められていました。
顧客が必要な製品情報にアクセスしにくく、購買体験の質が十分ではない状況を改善するため、さまざまな顧客接点を通じて適切な商品情報を提供していく基盤づくりが急務となっていました。Webサイト、ECサイト、SNS、営業、コールセンターなど多様な顧客チャネルでの一貫した情報提供体制の構築が必要でした。
取り組み:顧客視点での情報提供基盤の構築
同社は顧客が製品情報にアクセスしやすい環境づくりに向け、製品をより探しやすく、選びやすく、注文しやすい導線を備えたデジタル環境の整備に取り組みました。
PIM(商品情報管理)とDAM(デジタルアセット管理)を実現するソリューションを活用し、製品販売で必要となるすべての情報(製品仕様・設計データ、写真・動画・文書などのコンテンツとその関連データ)の収集、管理、発信を統合的に支援する基盤を構築しました。これにより顧客体験の向上、社内プロセスの最適化、パートナーとの関係強化など、新たな価値創造を導く仕組みを整備しました。
成果:顧客の情報収集体験が劇的に改善
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Webサイトからの製品情報の月間ダウンロード件数が約10倍に増加
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顧客が求める製品を絞り込み検索で迅速に見つけられるようになり、情報収集の利便性が向上
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営業担当者が顧客の要求仕様に応じて最適な製品を即座に提案できるようになり、顧客対応の質とスピードが向上
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常に最新の製品情報が顧客に提供され、情報の信頼性が向上
顧客の声を反映した継続改善により、利用者の情報収集活動に大きく貢献することができました。同社は製品企画からマーケティング、カスタマーサクセスに至るまで、一貫した顧客体験を提供する基盤のさらなる向上を目指しています。
上記の事例の詳細は以下でご覧いただけます。
導入事例:アネスト岩田株式会社様
顧客体験向上を実現する PIM の戦略的価値
顧客体験を向上させるためには、魅力的で質の高い商品コンテンツの提供が不可欠です。パーソナライゼーション、視覚情報、関連商品提案など、顧客が求める要素を効率的に実現し、多様なチャネルで一貫した情報を提供することが求められています。
PIMは、これらの要求を満たす戦略的基盤として機能し、情報の一元管理により部門間の連携を強化し、統一された情報配信を可能にします。
このように、組織全体で一貫した顧客対応を実現できる点が、競争力強化に直結します。そのため、PIMは顧客体験の向上と持続的な競争優位性の構築を実現する有効な手段となり得るでしょう。
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