デジタルチャネルが顧客接点の中心となる今、デジタル体験の質は購買行動やブランド評価を左右する決定的な要素となっています。情報の見つけにくさ、チャネル間での情報や体験の不整合、パーソナライゼーション不足といった質の低さは、顧客離脱を招き、結果的に長期的なロイヤルティ維持や収益機会にも影響を及ぼします。
本記事では、調査データをもとにデジタル体験の質の低さがもたらす影響を整理し、企業が取り組むべき改善の方向性を示します。
なぜ"質の良いデジタル体験"の提供が企業にとって不可欠なのか
近年、顧客がブランドと接する場面の多くはデジタルチャネルに移行しています。そのため、オンライン上での体験の質が、購買判断やブランド評価に大きく影響しています。
たとえば、VERINT社が実施した「The State of Digital Customer Experience Report 2024」(デジタル顧客体験レポート2024)の調査では、450名の業界リーダーと1,500名の顧客を対象に「顧客体験を構成する最も重要な要素は何か?」と尋ねたところ、87%が「問い合わせ時に素早く対応してもらえること」を最も重要な要素と回答しました。
ここでいう「素早い対応」とは、単に問い合わせへの返信が早いということだけを指すものではありません。顧客がWebサイト上で必要な情報をすぐに見つけられること、FAQやヘルプページで自己解決できること、そして必要に応じて適切なチャネルで円滑にサポートを受けられることまでを含みます。
つまり、迅速に課題を解決できる体験が求められているのです。
さらに、「質の低い顧客体験を提供されたら、どのような行動をとる可能性が高いか?」という質問に対し70%が「競合他社に乗り換える」と回答しました。
一方で「素晴らしい体験を提供されたら?」の問いでは85%が「再購入する」、75%が「友人や家族に推薦する」と回答しており、顧客体験の質が顧客の行動を大きく左右することが明らかになっています。すなわち、顧客のデジタル体験は売り上げやブランドの成長に直接影響を及ぼすことが示されているのです。
こうしたことから、顧客に質の良いデジタル体験を提供することは必須だと言えます。
デジタル体験の"質の低さ"がもたらす影響
デジタル体験の質の低さは、その場だけの不便をもたらすにとどまりません。売上や顧客維持率に深刻な影響を及ぼします。
PORTENT社のwebサイトに関する調査結果では、サイトの読み込み速度とコンバージョン率の関係が明らかにされています。
ページの読み込み時間が1秒の場合、平均コンバージョン率は約40%です。読み込みに2秒かかるサイトの平均コンバージョン率は34%であったのに対し、1秒遅れて3秒になると29%に低下するという結果になっています。わずかな遅延であっても、売上機会を損なう可能性が高いことが示されています。
さらに、Acquia社の「Closing the CX Gap: Customer Experience Trends Report 2019」の調査では、5,000人以上の消費者(あわせて500人のマーケターも対象)を対象に実施されました。その中で、「ブランドが自分を個人的に理解してくれると、ロイヤルティは高まるか」という問いに対し、米国の消費者の約4分の3が「ロイヤルティが高まる」と回答し、さらに59%が「一度ロイヤルティを持ったら生涯にわたって維持する」と回答しています。
これらの調査から、デジタル体験の質が顧客行動に大きく影響することが分かります。わずか数秒の遅延が売上機会を損なう一方で、顧客理解を示す体験はロイヤルティを向上させます。新規顧客の獲得は既存顧客の維持に比べて数倍のコストがかかるため、既存顧客を維持することが経営効率の面でも重要です。
デジタル体験の質を下げている主な要因
顧客が期待する水準に届かない背景には、いくつかの構造的な問題があります。Webやアプリの応答速度の遅延や操作性の低さに加えて、チャネルごとに分かれたシステムやデータ、パーソナライゼーションの不足、そして分散的なサイト運用によるガバナンスの複雑化が重なり、結果としてデジタル体験の質を下げています。
サイト・アプリのパフォーマンス不足
Webやアプリの応答速度は顧客の第一印象を左右します。ページ表示が遅いと「重い」「反応が遅い」と感じられ、結果的に離脱につながりやすくなります。実際に、商品ページの表示が数秒かかるだけで離脱してしまうケースも珍しくありません。
さらに、モバイル最適化の不足やリンク切れといった基本的な不備も、顧客にストレスを与え、コンバージョンを阻害する要因となります。
チャネルごとの情報や体験の分断
Web、アプリ、メール、店舗といった顧客接点が個別に管理されていると、全体としての一貫性が損なわれます。たとえば、すでに購入済み商品の広告が再び配信される、店舗で伝えた内容がオンラインに反映されていない、といったケースです。
顧客はこうした不整合を「自分が理解されていない」と受け止めやすく、ブランドへの信頼や継続利用の意欲を削ぐ原因となります。また、企業側にとっても無駄な広告費や業務負荷を増やす結果となり、双方に不利益をもたらします。
パーソナライゼーション不足
今日の顧客は自分に合った提案や利便性を当然視しています。前述したように、ブランドに理解されていると感じる体験は、ロイヤルティの形成に大きく影響します。逆に、画一的なコンテンツ配信や一律の対応は「自分ごと化されていない」と受け止められ、期待外れの体験としてブランド評価を下げられかねません。
パーソナライゼーションはもはや差別化の手段ではなく、顧客から求められる"前提条件"となっています。
分散的なサイト運用とガバナンスの複雑化
多くの企業では、ターゲットや目的に応じて複数のWebサイトを運用しています。たとえば、一般顧客向けのコーポレートサイトや製品サイト、会員向けのマイページやECサイト、ビジネスパートナー向けの販売支援サイト、社内向けのイントラサイトなどです。各サイトは異なる対象者と役割を担っています。
また、グローバルに事業を展開する企業では、日本国内だけでなく、北米、欧州、アジアといった各地域の拠点が独自にサイトを運用しているケースも少なくありません。
各サイトは、それぞれの目的や対象者に応じて運用されているため、個別の現場レベルでは機能しています。しかし、企業全体の視点で見ると、デザインガイドラインや更新ルール、承認フローなどが統一されておらず、全社的なガバナンスが確立されていない状況があることがわかります。特に、Webマスターや全社の責任者が各サイトを横断的に管理する仕組みが整っていない場合、情報の更新タイミングのずれや、表現・トーンが不統一といった問題が発生します。
こうした管理体制の複雑化は、更新作業の属人化や承認プロセスの遅延を招き、結果として顧客が接する情報の鮮度や一貫性に影響を及ぼします。
複数のサイトや拠点を抱える企業では、こうした分散的な運用環境を統合的に管理し、全社的なガバナンスを確立できる基盤が求められます。
これらの問題は一見別々の問題に見えますが、その根底には共通の課題があります。それは、顧客体験を「購入前」「購入」「購入後」「関係維持」といった一連の流れとして設計・管理できていないことです。
顧客接点を個別最適で捉えるのではなく、カスタマージャーニー全体を通じて一貫性のある体験を提供することが満足度と信頼の向上につながります。そのためには、パフォーマンスの改善、チャネル間での情報やデータの統合、パーソナライゼーションの実現といった顧客接点の最適化が必要です。加えて、これらを支える運用ガバナンスの確立も不可欠です。
顧客の行動全体を見通した体験設計へと移行することが、今後のデジタル戦略において重要な視点となります。
デジタル体験を高めるための改善アプローチ
顧客が離脱する要因を抑えるには、体験を高めるための仕組みづくりが欠かせません。ここからは、パフォーマンス向上や運用体制の整備など、実際に取り組むべき改善策を見ていきます。
継続的なパフォーマンス最適化
Webやアプリのパフォーマンスは、一度改善して終わりではなく、継続的に管理していくことが重要です。表示速度や反応の遅さを定期的に確認し、早めに対処することで、ユーザー体験を損なう前に手を打つことができます。
また、画像の軽量化やデータ処理の効率化、モバイル対応などの工夫を重ねることで、どの端末や環境でも快適に利用できる体験を維持できます。
顧客理解に基づく体験設計
顧客の期待や関心は、接触するタイミングや利用状況によって変化します。初めて利用する段階では、基本的な使い方やサービス内容の案内が求められます。リピート利用の段階では、より詳細な情報や新しい選択肢の提示が期待されます。さらに、比較検討中の顧客にとっては、他製品との違いや具体的な事例が判断材料となります。
このように、顧客の状況や関心に合わせたコンテンツを提供することが、信頼感のある体験を生み出し、長期的な関係構築につながります。
運用負荷を軽減する仕組みづくり
属人的な更新や承認フローは、情報の正確性やスピードを損ないかねません。そのため、更新プロセスの標準化やワークフローの自動化が不可欠です。具体的には、テンプレート化された更新手順や自動承認ルートを整えることで、担当者に依存せず、安定した更新サイクルを実現できます。これにより、組織全体で均質な体験を効率的に提供できる体制を築くことが可能です。
統合的なデジタル基盤の構築
個別最適にとどまらず、組織全体で一貫した顧客体験を提供するには、チャネルを横断して統合的に管理できる基盤が欠かせません。サイト、アプリ、メール、店舗などを一元的に扱うことで、どの接点でも顧客が同じ品質の体験を得られるようになります。さらに、統合基盤の導入により更新スピードが均一化され、マーケティングの一貫性やガバナンス確保が容易になります。これにより、顧客の行動や反応を迅速に把握し、改善施策を継続的に回せる体制が整います。こうした迅速な対応力と継続的な改善の積み重ねが、結果として長期的な競争優位性につながります。
デジタル体験の質の低下は競争力を損なう
デジタル上での体験は、顧客満足度だけでなく、売上やブランド価値に影響する経営課題となっています。問い合わせ対応のスピード、チャネル間の一貫性、パーソナライズされた利便性、そして最新情報の確実な提供。こうした各要素は、顧客が購入前から購入後、関係維持に至るまで体験する一連の流れの中で、シームレスな体験としてつながっています。
パフォーマンス改善や顧客データに基づく体験の最適化、webサイトやコンテンツの運用効率化、さらには統合的な基盤の導入といった施策を段階的に進めることで、顧客に選ばれ続ける体験を設計することが可能です。
顧客がどこで離れているのかを正しく把握し、課題を先送りにせず取り組む姿勢が、長期的な信頼と継続的なブランド価値の向上につながります。
デジタル体験の質を高めることは、短期的な成果を生み出すにとどまりません。中長期的な顧客との関係と競争優位性を築くための投資といえます。いま取り組むかどうかが、将来の優位性を左右するポイントとなるでしょう。
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