いま日本企業に求められる
ビジネスアナリシス

EXcited About The Future

秋田 光穂

Mitsuho Akita

業務改革・システム構想担当
シニアコンサルタント

私の役割とミッション

こんにちは。私はこれまでSEとして製造業のお客様を対象に製品開発データ管理を中心とした業務システム構築に十数年従事し、その後、複数のお客様社内でのご支援を通して得た業務知見を活かし、当該領域のITソリューションコンサルタントとしてPLMソリューション提案や当該ソリューションをベースとしたシステム構想策定支援等を経て、ソリューションを限定しないリードコンサルタント組織であるビジネスバリュー推進室へ異動し現在に至ります。
弊社リードコンサルタントは少数ではありますが、各部営業・エンジニアと一体となってお客様のITに関する取り組みにおいて、お客様自身が何をすべきか、どう進めるべきかでお悩みの段階からコミュニケーションを始め、弊社コンサルティングプロセスに基づきお客様の真の狙いや課題を引き出し、お客様の経営方針・事業課題と整合の取れた解決策立案や、それらの実行ロードマップ策定等のご支援を担当しています。
勿論弊社ビジネスの中心はシステムインテグレーションサービスおよびそれに伴うソフトウェアやハードウェアの販売となりますので、後続の弊社ご提供の各ソリューションによるシステム開発フェーズへ繋げることが大きなミッションの一つであり、個別ソリューションの提案活動では明文化されない様な想いや意図も含めたお客様ニーズを弊社開発チームと連携することにより、お客様に刺さる提案のサポートや、受注後のスムーズなシステム開発フェーズの立ち上げと、その後のお客様と開発チーム間のコミュニケーションの円滑化を図る等の役割を担っています。

欧米で適用が進むビジネスアナリシス

話は変わりますが、皆さん"ビジネスアナリシス"という言葉をご存知でしょうか。日本ではあまり認知されていませんが、昨今欧米ではビジネスアナリストという職種が一般的に認知されており、世界最大のビジネス特化型SNS「LinkedIn」によると2020年需要のあるハードスキルランキングとしてビジネスアナリシスが6位となっています。
ビジネスアナリシスの普及・啓蒙を進める国際的専門団体IIBA(本部カナダ)が発行するビジネスアナリシス知識体系「BABOK」では、ビジネスアナリシスとは「ニーズを定義し、ステークホルダーに価値を提供するソリューションを推奨することにより、エンタープライズにおけるチェンジを可能にする専門活動」であると定義されています。
少々分かりづらいですが、言い換えると、ステークホルダーの持つ真のビジネスニーズや現状の業務課題を分析し、それらを実現するための最適なソリューションを関係各部署などステークホルダーとコミュニケーションを取りながら構築し、ビジネスの価値を最大化することです。したがって、ビジネスアナリストは、様々なステークホルダーの意見のバランスを取りながらビジネスアナリシス活動を進めていく必要があるため、客観性や論理性とコミュニケーション能力が必要となります。
日本ではこの様な役割を担うのは上流SEであったりプロジェクトマネージャであったり、またはコンサルタントであったりとケースバイケースですが、欧米ではSE(SEと呼ばず開発エンジニア)やPMとは区別され、ステークホルダーの要求を取り纏め、プロジェクトの開始前からプロジェクト終了後においても継続的にソリューション(解決策)が提供する価値に責任を持つのはビジネスアナリストの役割とされています。

私が'17年に参加した米国での研修を主催する米国カリフォルニア州立工科大学ポモナ校教授一色浩一郎博士によれば、今日米国では企業のIT投資の約半分がビジネスアナリシスに費やされ、その経営価値(IT投資がもたらす企業の生産性向上)は日本の約2倍(製造業)、約14倍(非製造業)に至っており、約13万人以上のビジネスアナリストが活躍しているそうです。
その背景として、米国では'80年代「ジャパンアズナンバーワン」に対抗すべく膨大なIT投資を行ったが経営価値向上に寄与せず、その後、ノーベル賞経済学者ロバート・ソロー他の「生産性パラドックス」研究により、その原因は組織・プロセス・ルール等を改革せず、システム化のみのIT投資に走ったことによるものとされ、その反省から'90年代からは要求工学、2000年代からはビジネスアナリシスへのIT投資が進んだと言われています。
他方、我が国の今現在の生産性に目を向けると、2019年時点の労働生産性が主要先進7カ国中最下位(OECD加盟国37カ国中21位*1)という状況であり、コロナ禍の影響を受け状況は更に悪化することが懸念されます。

表1 時間当たり労働生産性 上位10カ国の変遷

今日、労働生産性の向上にITの活用は欠かせないものとなっていますが、前述の通り米国と比較し低い水準の日本企業のIT投資経営価値のままでは、これまでの様なIT投資をいくら続けても米国の'80年代と同様にこの状況を脱することは困難であると言えます。
これは従来の日本企業のIT投資の多くが、企業の労働生産性の向上に対し十分に寄与出来ていなかったとも捉えられ、つまり、関係するステークホルダーの真のニーズ把握と、それらからの要求仕様やシステム構築の前提条件への確実な落とし込みが不十分であるため、システム構築に想定より多くの費用を要したり、所期の効果が上げられなかったりするケースが相対的に多かったのではないかと推察されます。 私はこれらが日本企業のIT投資の経営価値が相対的に低くなっている大きな原因なのではないかと考えています。そして、それらの原因を解消しIT投資の経営価値を向上する手段として、先に述べたビジネスアナリシスが有効であると考えています。

ビジネスアナリシスのグローバル標準「BABOK®ガイド」とは

このビジネスアナリシスを実践するうえで参考とすべきなのが、ビジネスアナリシスのグローバル標準「BABOKガイドV3」です。(この他にも「PIMBOK」で有名なPMIが発行する「PMIビジネス・アナリシスガイド」もありますが、私はIIBA会員であるためここでは「BABOK」をご紹介します)

「BABOKガイド」の構成は、ビジネスアナリシスを実践するうえで論理的に構成された6つの知識エリアを中核として、各知識エリアにおいて、ビジネスアナリストが果たすべき主要コンセプト(コア・コンセプトモデル)ごとの役割と、各知識領域で実施するタスクや各タスクの目的を達成するために利用するツールやテクニック、およびタスクに係るステークホルダー等を定義しています。

図1  BABOKガイドV3の構成イメージ(「BABOKガイドV3」を基に整理)

表2 6つの知識エリア概要とタスク(「BABOKガイドV3」より整理)

知識エリア概要タスク
ビジネスアナリシスの計画とモニタリング ビジネスアナリストとステークホルダーの活動を整理し、まとめたものである。 この知識エリアのタスクが生成するアウトプットは、他の知識領域全範囲にわたる他のタスクの主要なガイドラインとして利用される。 ステークホルダー・エンゲージメントを計画する
ビジネスアナリシス・ガバナンスを計画する
ビジネスアナリシス情報マネジメントを計画する
ビジネスアナリシス・パフォーマンス改善を分析する
引き出しとコラボレーション ビジネスアナリストが、ステークホルダーから情報を入手し、結果を確認するタスクや、情報が集まった後での、ステークホルダーとのコミュニケーションについても記述する。ステークホルダーとのコラボレーションはビジネスアナリシスの作業が発生している限り継続される。 引き出しの準備をする
引き出しを実行する
引き出しの結果を確認する
ビジネスアナリシス情報を伝達する
ステークホルダーのコラボレーションをマネジメントする
要求のライフサイクル・マネジメント 要求とデザインの情報を発生から廃棄までマネジメントし、維持していくために、ビジネスアナリストが実行するタスクについて定義する。
互いに関連している要求とデザインの関係に意味づけし、変更が提案されたときに要求とデザインに対して生じる変更を評価し、変更を分析して合意を獲得する。
要求をトレースする
要求を維持する
要求に優先順位を付ける
要求変更を評価する
要求を承認する
戦略アナリシス 戦略的または戦術的に重要なニーズ(ビジネス・ニーズ)を特定するために、ステークホルダーと協力して実施しなければならないビジネスアナリシス作業を定義する。これにより企業がそのニーズ実現による変革に向け、上位および下位の戦略を整合させる。 現状を分析する
将来状態を定義する
リスクをアセスメントする
チェンジ戦略を策定する
要求アナリシスとデザイン定義 引き出しで得られた要求を構造化し整理する、要求やデザインを仕様化しモデル化する、情報を検証し妥当性を確認する、ビジネスニーズを満たすソリューションの実現方法を特定し、実現方法ごとに得られるであろう潜在価値を見積る。初期コンセプトを確立し、ニーズを探るところから、そのニーズを特定の推奨ソリューションに変えていくところまでを範囲としている。 要求を精緻化しモデル化する
要求を検証する
要求の妥当性を確認する
要求アーキテクチャを定義する
デザイン案を定義する
潜在価値を分析しソリューションを推奨する
ソリューション評価 提供した一部または全体のソリューションのパフォーマンスと、ソリューションが提供する価値を評価するためのタスクを定義し、その価値のすべてを実現することを妨げる障壁や制約条件を除去する方法を推奨する。 ソリューション・パフォーマンスを計測する
パフォーマンス測定結果を分析する
ソリューションによる限界を評価する
エンタープライズによる限界を評価する
ソリューションの価値を向上させるアクションを推奨する

BABOKは文字通り知識体系つまりフレームワークであり方法論ではないため、各知識エリアのタスクを実行するプロセスや順番は規定されていません。
よって、ビジネスアナリシスを適用する取り組みのタイプ(規模や内容)や実践するコンテキスト(実行する環境や状況等)に応じて適用する専門視点、各タスクの順序や重要度、利用ツール等を適宜変える必要があります。
ただし、知識エリアごとにまとめられたタスク内容を踏まえ、6つの知識エリアを従来のウォーターフォール型の一般的なシステムライフサイクルへ対応させてみると、私の理解では下図の様な位置づけとなると考えています。

図2 一般的なシステムライフサイクルにおけるBABOKガイド知識エリアの位置づけ

ここで先程、日本企業におけるIT投資の経営価値向上の手段としてビジネスアナリシスが有効と述べましたが、その理由をBABOKガイドに沿ってご説明すると、

  • 「戦略アナリシス」にて、ビジネス要求、ビジネス目標そして対応すべきソリューションのスコープを定め、
  • 「要求アナリシスとデザイン定義」にて各種要求(ステークホルダー要求、ソリューション要求、移行要求)を明らかにし、全ての要求とデザインがビジネス要求に沿ったものであるかの妥当性を確認するとともに、
  • 「要求のライフサイクル・マネジメント」の要求トレーサビリティにより各レベルの要求間の整合やデザイン抜け漏れや不必要な対応を防止できるため、


「要件定義が不十分」「追加の開発作業が発生」「システムの仕様変更が相次いだ」といった問題はビジネスアナリシスの実践により解消できるのではないでしょうか。

ここでは各知識エリアごとのタスクの詳細までご紹介しきれませんが、ガイドでは更に各タスクにて一般的に利用されるテクニックやツール等も例示されているため、ビジネスアナリシスの実践に向け理解を深めるのは勿論のこと、今後企業としてビジネスアナリシス推進を予定しビジネスアナリストを採用するにあたり、期待するスキルや知識が何かを理解するのにも役立つので、詳しく知りたい方は是非「BABOKガイドv3」を参考にしてみては如何でしょうか。

また、近年コロナ禍を始め、気候変動による自然災害、貿易摩擦による景気低迷等、予測不能で不安定な所謂VUCAの時代と言われており、企業は競争力を維持し続け市場で生き残るためには、環境変化に応じて継続的に製品やサービスを試行し、改善する試みが欠かせません。
この様な時勢を反映し、これもまた日本では十分に普及してはいませんが、欧米では製品やサービスまたは企業変革のソリューションの開発手法として、アジャイルアプローチの適用が進んでいます。
従来のウォーターフォールアプローチでは開発中での要件変更は基本的に認めませんが、アジャイルアプローチでは開発中も要件の変更を取り込みながら改善を繰り返しながら開発を進めるところに大きな違いがあります。そして、IIBA調査*3によると既にビジネスアナリストの7割以上がアジャイルアプローチに関与していると報告されていて、アジャイルアプローチの代表的手法である「スクラム」におけるプロダクトオーナーが、ビジネスアナリストと同様の役割であり、当該アプローチへのビジネスアナリシスの適用が進んでいます。
これに呼応してIIBAではアジャイルアプローチにおけるビジネスアナリシスの役割、考え方、実践方法を纏めた「BABOKガイドアジャイル拡張版V2」やプロダクトオーナーとしてのビジネスアナリシスの考え方を纏めた「Guide to Product Ownership Analysis」を発行しており、当該アプローチへのビジネスアナリシスの普及に注力しています。

私たちITベンダーの役割

ここまで、欧米での適用が進んでいるビジネスアナリシスとそのグローバル標準BABOKの概要、およびこれからの日本企業のIT投資の経営価値向上に有効と考える理由について述べさせていただきました。

しかし、今後日本企業がビジネスアナリシスを推進するにあたり、我が国特有の構造的な問題があると考えています。
ビジネスアナリストは経営層や事業部門、システム開発チームを含む複数のステークホルダーのニーズを繋ぐ役割として、また「ソリューションの推奨」においてはITに関する知見も必要とされ、IT企画部門や情報システム部門がその役割を担うことが期待されますが、現状ユーザー企業の情報システム部門は少人数による既存システムの運用管理や推進中プロジェクトのベンダーコントロール等に追われており、これ以上の役割を担うことは直ぐには難しい状況なのではないでしょうか。
我が国の情報処理・通信に携わるICT人材の所属先企業の比率は、ユーザー企業:ベンダー企業=3:7であり*4、米国のそれと比較してユーザー企業が抱えるICT人材の割合が少なく、多くICT人材は弊社の様なベンダー企業に所属している状況です。

表3 日本と米国の情報処理・通信に携わるICT人材

本来企業におけるビジネスアナリシスの実践は、コミュニケーションの柔軟性、スピード感や費用等の面からユーザー企業自身で行うのが理想であり、昨今ICT人材やDX人材の拡充を進めるユーザー企業も増えてきましたが、必要なスキルセットや知見を持った人材を短期間で大量に育成または採用することは難しく、当面ユーザー企業がDXまたはビジネスアナリシスを推進・強化するには我々ベンダー企業の支援が必要な状況が続くと想定されます。
よって、より多くのICT人材が所属する私たちITベンダー企業は、最新の技術への追随は勿論のこと、その技術をビジネスニーズに適合させ、ソリューションが提供する価値を最大化することを目的としたビジネスアナリシスへの理解を深め推進していくことが必要であり、そのうえで従来からの請負型ビジネスから脱却し、ユーザー企業と一体的に推進する共創的パートナーとなり、価値創造型のビジネスへ変革していくことが、今後我々ITベンダー企業が生き残っていくためには必要な事なのではないかと考えています。

そして、冒頭でご紹介した様に私自身の役割はビジネスアナリストそのものであり、今後ビジネスアナリシスのグローバル標準の知識と弊社コンサルティングプロセスの整合を図りながら、弊社がお客様へ提供する価値、ならびにご支援するお客様自身が生み出す価値向上に向けて、所属組織名の文字通りビジネスバリューの向上をより一層推進していこうと思います。

参考文献

(*1) 公益財団法人 日本生産性本部「労働生産性の国際比較2020」
(*2) 日経コンピュータ2018年3月1日号
(*3) IIBAサラリーレポート2020
(*4) 総務省 平成30年版 「情報通信白書」 図表1-4-1-7 日本と米国の情報処理・通信に携わるICT人材

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